イギリス人にあなたの好きな画家は?ってきいたら間違いなくトップ3にはいるのがジョン・コンスタブルです。
彼はロンドンから北東に上がったサフォークの出身です。ストア河が流れていて緑がきれいでのんびりしたところで彼自身「この景色のおかげで僕は画家になった」と言っています。
生まれたのは1776年ジョージ王朝の時代です。その時代、どんな絵が人気を博したでしょう?絵が買える、もしくは注文できる身分の人たちは、天井の高いお屋敷に住んでいました。社交が盛んで、個人的なお茶会や、パーティーが催されるようになった時代です。お金持ちのお坊ちゃまたちは、教養に最後の磨きをかけるため、ヨーロッパ大陸にガイドと家庭教師を連れて、2年から3年のグランドツアーに出かけます。当然大陸風の芸術が好まれますから、神話や聖書を題材にしたものが人気になります。
ちょっと想像して見て下さい。誰だって何かしら自慢したいじゃない?
「お、いいじゃん、この絵。」「ウン、この間さあ、イタリアで買ったんだよね。このおじいさんが時を表していてね、つまりクロノスって訳。それでね、この女性が欲望を表しててさあ・・・ほら、ここに天球儀があるだろ?この意味はね・・・。」「へエー物知りだねえ、君。ところであそこにいる女の子、さっきから君を見てるよ。」「ま、教養あるから僕、もてるんだよねー。」こんな感じ?
もしくは肖像画。「これは僕の曾おじいさんでね、王党派のために戦ったんだよ。チャールズ2世はえらく感激してね、それで伯爵の位を受けたんだよ。」「ああ、これは母方の叔母でね、パーシー家とも繋がりがあって・・・。」「君んちってすごいねえ・・・。」
じゃあ風景画は?「ヤア、木と川がきれいだね。まさか君が描いたの?」「えっ買ったって?」「なんで?窓の外と同じじゃん!」
ね、風景画だとうまく会話が進まないでしょう?デモね、コンスタブルは風景が描きたかったの。
この作品は彼の初期のもので、フラットフォードミルという題です。幸せな風景画でしょう?なんだかスケッチをそのまま色づけした感じ。でもホントはかなり綿密に計算されて構成されています。まず、題が水車小屋だから、当然視線は左中央の木の後ろの水車小屋に惹きつけられます。うす赤い建物、見えるでしょう?そしたら自然に目は似たような色を追いかけるのね、それが木の手前の男の子の帽子。その手前には長いさおを持った人がいて、さおの先には 男の子の乗っている馬の額が赤、その足元から右手にぐるっと川沿いの小さな赤い花。そしてメドーの向こうにはうす赤い牛の群れ。画面を一周したでしょう?これはクロードなんかに代表される巨匠のよく使うテクニックです。一見単純に見える風景なんだけど、いくつものスケッチをもとにして、スタジオで仕上げているんです。このサイトだとよくわからないかもしれないけど、実際の絵を是非じっくりと見て下さい。彼はこの作品のサインを絵に、ではなくって絵の中の地面に描いています。自分の名前を何かに書くときって、どんな気持ちだか思い出してみて。「これは、僕のもの。僕のお気に入りのもの。誰にも渡したくないもの。」それが彼のこの景色に対する思い入れなんです。彼がこの絵を描いたのは、幼馴染で、初恋の相手でもあるマリアと結婚したばかりの頃。一時は身分違いとあきらめていた、この恋が親戚からの遺産分与で思いがけなく実現した、そんな時です。ハッピーな気持ちが、ね、伝わってくるでしょう?
次はブライトンの桟橋の絵を見て。ブライトンはこの当時一世を風靡した観光地です。もとはしがない漁村だったのが、桟橋やホテルが出来て1大リゾート地になったところです。でも、この絵にはそんな華やかさは無いでしょう?確かに桟橋もオープンしたばかりのアルビオンホテルも見えるけれど手前で網をつくろっているのは、貧しそうな漁師だしこの空!コンスタブルが好きではなかったブライトンまで、スケッチ旅行に来たわけではないんです。実はマリアが病気になっちゃったの。そこで療養のために海水を求めて、ここまでやってきたんです。華やかなリゾート地を描きながらも心ここに非ずって事?
じゃあ次はお城の廃墟。このお城もサフォークにあるなんて信じられる?最初の絵をスケッチした場所からそんなには離れていないんだけど、何でこんなさびしい絵を描く気になったのかしら。それはとうとうマリアが死んでしまったから。お友達に書いた手紙の中に「何もかもが変わってしまった。もう同じ景色を見ても同じものは感じられない。」って残してます。これ以外にもストンヘンジだとか、しっかりしてよ、って背中を叩きたくなるような絵を描いています。かろうじて救いなのは、日がまさに廃墟からさそうとしていること。これは仕上がった作品ではなくて、スケッチなんだけど何かつらい事があるときに見ると、何となく慰められる作品で私は大好きです。
一番上の作品はパリで金賞を受賞してそれがきっかけでイギリスでも認められるようになったという彼の代表作「干草車」です。私自身は最初の絵のほうが好きなんだけど皆さんはいかがですか?
コンスタブルの作品には白黒のぶちの犬がよく登場しますが今日ご案内したこの4つともにワンちゃんが出てきます。ある時絵の好きなイギリス人の友達の家で絵の中にワンちゃんを見つけて友達に「これ、コンスタブル?」って当てずっぽうに言ったら本当にそうでびっくりされた事があります。マイナーな作品だったんで題は覚えていませんがもっともらしくテクニックの話で盛り上げて犬の話は伏せておきました。「ま、イギリスの画家だったら一目見て誰が描いたかわからないとガイドは出来ないから。」と堂々と抜かしてしまいました。その時はすごく感動されて気分よく帰ったんですがそれ以来後には引けないのでパーティーのお誘いがあるたびに言い訳をして断ってます。
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