2012年9月13日木曜日

ラファエル前派展

 昨日から一般公開の、テイト美術館「ラファエル前派展」に行ってきました。
私がブルーバッジガイドの試験を受けたとき、ここも、実技試験の会場のひとつ。
候補生(数人)と試験官(現役のガイドも含む)で美術館に入って、
名前をよばれたら、目の前にかかっている絵の説明をするってかんじです。

テイト美術館は最終試験ではなくって、2年間のコースの1年目が終了した時の試験でした。
「これに受からないと、次の年に進めない」って恐れていたことを思い出します。
その割には、何の絵を案内したのか覚えていません(笑)


テイト美術館はイギリスにいくつかあります。
ロンドンにはふたつ。
ここはテイト・ブリテンという名前で、英国の絵画が主に集められています。
もうひとつは西暦2000年にオープンしたテイト・モダン。
そこは、近代から現在に至るアートを観ることができます。

ラファエル前派はぎりぎりテート・ブリテン。
これ以降のものは、モダンの方に振り分けられちゃうみたいです。

これは今回の展示のパンフレット。
カタログは、重なるものが既にたくさんあるので買いませんでした。
ほとんどの作品は、テイト美術館所蔵のもの。
そこで、私にとっては新たな発見はほとんどありませんでした。

ただ、最後の部屋で、あっと息を呑むほど惹かれた絵がありますから紹介します。
ウイリアム・ホルマン・ハントの作品。

これまで私は彼の作品はあまり好きではありませんでした。
少し、宗教的に、押し付けがましいところが感じられるのが理由です。
でも、このシャロット姫を観て、ずいぶん印象が変わりました。

この作品はハントの晩年の作品です。
一気に描きあげた訳ではなくって、17年の月日を費やしています。

この絵は、詩人テニスンの「シャロット姫」がテーマです。
「赤毛のアン」の中で、アンが川で溺れそうになるシーンは、テニスンが書いた別の作品。
小船、ランスロット卿など似たようなモチーフが出てきます。
ランスロット卿に恋焦がれて死んでしまう、エレーンが主人公。

シャロットは呪いがかけられたお姫様。
「外の世界を直接見ると死んでしまう」という呪い。
塔の中でひとり寂しく住んでいる彼女は、鏡に映った世界をタペストリーに織って過しています。

ある時、歌声を聴いて、鏡に映った騎士の姿を見ます。
それは、美しい騎士ランスロット卿でした。
思わず窓辺に近づき本物を見てしまった彼女は、呪いを受けてしまいます。
その時、彼女の世界の全てであった、鏡は横にひび割れて、
彼女は塔を後にランスロット卿のいるキャメロットへと急ぐのです。
ところが、呪いはとうとう彼女に追いついて、
キャメロットへの小船の中で、シャロット姫は息絶えてしまうのでした。

テニスンの詩の全部を載せると長くなりすぎるので、この絵の部分だけ抜粋しますね。

She left the web, she left the loom;
  She made three paces thro' the room,
  She saw the water-lily bloom,
  She saw the helmet and the plume,
  She look'd down to Camelot.
  Out flew the web and floated wide;
  The mirror crack'd from side to side;
  "The curse is come upon me," cried
  The Lady of Shalott.

とっても大きな作品で、圧倒されます。
そして鮮やかな色!!!
奥に見えている景色は彼女の世界の全てであった鏡の世界です。
糸が絡まった彼女は今、彼女を縛っていた世界から飛び出すところ。

これまで私が観たことのあるシャロット姫のイメージは、
小船に乗って、はかない生涯を終える時。
感傷的なシーンは美しくはありますが、あまり好きではありませんでした。

でもハントのシャロット姫は違います。
運命のドラマが前面に出されて、とても迫力があります。
ふと、アガサ・クリスティーはこの絵を観たことがあるのかと、考えてしまいました。

「鏡は横にひび割れて」という彼女の作品は、このシーンにヒントを得ているのです。

とても残念なことに、この作品はテイト所蔵ではありません。
アメリカ、コネチカットにある「Wadsworth Atheneum Museum of Art」のもの。
一応オフィシャルサイトの絵の部分をリンクしておきます。
メインのページで見つけられなかったので、レプリカの販売ページ。
でも美術館のサイトだから、他のページにも簡単に移動できます。

ということで、この作品を観たい方は、是非テイトに足を運んでください。
この特別展示を逃したら、しばらくはお目にかかれない作品です。
2013年1月13日まで
これ以外にも、モリスの家具とかケルムスコット(リンクします)から持ってきていました。
ラファエル前派がお好きなら必見の展示です。



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4 件のコメント:

rottenmeier さんのコメント...

この絵、大きいとしたら迫力あるでしょうね。画家にとって生涯一番の作品は他の作品が後世に残らなくても、それだけは名作として語り継がれる物なんでしょうね。ロマンティックな絵。背景の物語を知っていればより深く味わうことができそうです。テイトでやっているんですね。ラファエル前派にはそれほど興味は無かったのですが、これは楽しそうな展示会。ロンドンに行きたくなってしまった。

miki bartley さんのコメント...

ロッテンマイヤーさん、こんにちは。
以前、ラファエル前派をモチーフにしたドラマがBBCで作られて話題になりました。
それを観てからご覧になると面白いかも。
http://www.bbc.co.uk/programmes/b00lvyq2
DVDが出ているはずです。

かんとく さんのコメント...

Mikiさん
こんにちは。「ラファエル前派展」なんて羨ましいです。1月半長くロンドンに居れたら、見れたのに残念。日本にも来てくれないかな~

miki bartley さんのコメント...

かんとくさん、こんにちは。
この展示は多分この後何回も見に行くと思います。
とりあえずこの絵が気に入ったので。
こんな風に、ある特定の絵が心にひっかかる時っていうのが、時々あります。
それだけでも行ってよかったと思います。

でも、かんとくさんのブログで、日本でもいろんな展示会があることを知りました。
これからもいろいろ教えてください。