2008年5月30日金曜日
ウッチェロの聖母子
ダブリンの国立美術館にある、ウッチェロ(Paolo Uccello 1437-1440)の聖母子です。
これが飾られている部屋には宗教画がたくさんかかっていますが、これが一番の個性を放っています。
私はこの小さな作品(57x33cm)を前にして、まず「皆さんはこの作品がお好きですか?」と聞いてみることにしています。
殆どの方は「あまり好きではありません」との答え。
皆さんはいかがですか?
次に理由を聞くと「キリストが意地悪そう」とか「マリアが美しくない」とか結構ネガティブな要素が次々に指摘されます。
美術館や博物館でいろんなものをガイドする時に、私が気にすることのひとつが、その周りに何があるか、そしてどんな順番でそれを見せるか、ということです。
この作品を見るときも、最初の質問をした後で、ぐるっと周りを見てもらいます。
「さあ、それではこのキリストと同じぐらい意地悪な顔を捜してください」
お客様は言われたとおり、まじめに他の作品を見つめますが、ウッチェロの作品に戻ってきます。
「ね、この作品の登場人物は人間なんですよ。他の作品のような、感情のないアイコンではないんです」
ウッチェロは若い時にモザイク師としての修行を積みました。
モザイクでの表現は、絵画に比べると限られています。
色を混ぜることもままなりません。
彼が絵画の世界に足を踏み入れた時に、どんな感動を彼が襲ったでしょう?
この当時は、ポプラ材などの板に卵などを糊に使って色を載せました。
作品によっては卵に油を混ぜて、絵の具の乾きを遅くして、細かな絵柄を表現しました。
ウッチェロが夢中になったのは、細かな模様や感情の表現だけではなく、絵画中の奥行き「遠近法」です。
この作品でも、2次元の世界からキリストが飛び出しているのが解りますか?
彼以前にはありえなかった表現です。
ただ遠近法に夢中になるあまり、彼の作品からは2次元の作品から得られたような厳粛さはあまりありませんし、後期ルネッサンスの美しさも期待できません。
不自然さの残る、ぎこちない作品ですが、私はウッチェロの作品が大好きです。
彼の作品からは、きっと彼が試行錯誤して、楽しんで仕上げたんではないか、といった雰囲気が感じられるからです。
今の私たちからすると、当然のような遠近法ですが、彼は子供のように夢中になったに違いありません。
残念ながら彼の時代にも、そしてその後もずっと評価の低かったウッチェロですが、最近になって改めて見直しが行われているようです。
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