2025年3月13日木曜日

ナショナルギャラリーのサムソンとデリラ



今日はルーベンスが描いた「サムソンとデリラ」を紹介したいと思います。

ナショナルギャラリーにあるこの絵。

大きくちゃんと見たいなら、ナショナルギャラリーの公式サイトのリンクをどうぞ。

イギリスではサムソンはサムソンだけど、デリラはデライラと発音します。

そして、デライラという名前には悪女という印象が付きまとう。
それは聖書の中の物語からのイメージ。

まず、この絵のテーマになっているサムソンとデリアなんですが、ふたりは恋人同士です。
このサムソン、彼はお母さんのおなかにいる時から神様が気にかけてくれていたラッキーな人。
天使が下りてきて妊娠中に気を付けた方がいいことなんかのアドバイスももらってた。
生まれた後も願い事は何でも神様が叶えてくれます。
力も並外れて強くてユダヤ人のヒーロー。

ところが~!!
それで終わりなら面白くない!

実はサムソンって女運が悪いんです。
というか、見る目がないといった方がいいのか…。

最初に好きになった女の子が宿敵部族ペリシテ人の娘。
でも好きで好きでたまらない。
そこで神様に守られてもいることだし、家族の反対を押し切って無理やり結婚しちゃいます。
ところが奥さんの実家のみんなから嫌がらせをされて面白くない。
ある日、我慢も限界ということでカッとなったサムソンは奥さんの親戚一同を皆殺しにする…といっても武器はどうしたのか?
「ねぇ神様、なんかいい武器ないですか?」って聞けばいい。
そうしたら、ロバの白骨死体が道端にでてくる。
その下あごの骨を手に親戚を皆殺しにします。
その辺は血の海ですよね。
映画にしたらちょっとグロすぎるかもしれませんが、聖書で読むとそんな風に聞こえないのが不思議。
疲れたサムソンはへなへなっと座り込んで「のどが渇いたよ、神様…」ってつぶやく。
そうしたらサムソンの座った脇から泉が湧き出てのどを潤すことができたそうです。
旧約聖書って面白いお話がいっぱいあるけれど、サムソンのお話はその中でも読み応えがあるもののひとつです。

さて、仲間を何人も(聖書によれば1000人)殺されたペリシテ人は当然復讐を考えます。

しばらくして、サムソンに新しい恋人ができるのを待って、その彼女デリアを買収することにしたのです。
「サムソンからその力の秘密を聞き出せ」というわけ。
デリアはことあるごとにサムソンに問いかけます。
「ダーリン、どうしてあなたはそんなに強いの?」そんな問いかけじゃないですよ。

もっと具体的。
「どうやったらあなたを縛って痛めつけることができるの?」
それを聞いて疑わないほどサムソンは純情だったか?

サムソンはデリラに嘘を教えます。
「かわいたことのない七本の新しい弓弦をもってわたしを縛るなら…」
で、デリラはそうしたんですが、全然効き目がない。
他にも使ったことのない新しい綱で縛れとか、髪の毛を織り込んだ布を使えとか、もうこうなると縛られるのが好きなのかと誤解しちゃうほど(爆)

デリラがうるさいので結局秘密をばらしてしまうサムソン。
具体的には毎日「何度も嘘ばっかり言って、どうして私を愛していると言えるのですか」としつこく迫ったそうなので、サムソンの魂は死ぬほど苦しんだらしいです。
私がサムソンだったら、自分を痛めつける方法を聞かれた1回目でその人とは別れますけどね(笑)
サムソンは忍耐の男!

で、ここで注意してもらいたいのはその秘密が何かということなんですが、サムソンの上に覆いかぶさるようになった青い服の男性がハサミを持っていますよね?
ルーベンス先生、これじゃダメなんです!!
旧約聖書の士師記 13-5 に「見よ、あなたはみごもって男の子を産むであろう。その頭に剃刀を当ててはならない。」って出てくるんですよね。
はさみで切っても何ともない。
実際にサムソンがデリアに言った噓のひとつは、髪の毛を7房、織り込んだ布を使えというものでしたが実行後(つまり髪を切られた)サムソンの怪力は元のまま。
ま、かみそりだと濡らして剃るから起きちゃうってことかもしれません(笑)

それにしてもデリアはこのあと銀をたくさんもらったんですが、この絵を見る限りでは結構後悔していますよね。
でも秘密を聞き出すまでに何回も失敗したり、毎晩のようにしつこく聞いたっていう事実からも後悔しそうなタイプではないと思うのは私だけ?

悪女デリア。
今は美しくてもいつか時がたてばその美貌は失われて自分が犯した数々の罪にさいなまれる日が来るのでしょうか?
ということでルーベンスはデリアの顔の上に老婆を描きこんでいます。
そしてそのさらに上部には美と愛の女神アフロディーテ。
肉体の愛を表すキューピッドが愛の女神を見上げているという構図も意味が深いです。
そして陰影とのコントラストがデリアの白い身体を輝かせてとても美しい作品です。

この絵はアントワープ市長宅のマントルピースの上に飾るために描かれました。
なので、床で寝ているように見えてしまうのはちょっともったいないです。

もう少し高いところに飾られていたわけで、私たちが今美術館で見るよりももっと下から見上げるようにするとベッドの上にいるというのがわかります。

是非、ナショナルギャラリーで本物を見てくださいね。








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