2025年3月15日土曜日

同じテーマの絵を比べてみよう!


イギリスのいいところは美術館や博物館がたくさんあること!
特にその首都ロンドンには数えきれないほどのギャラリーがあって、無料で訪れることができる場所も多いです。

私は隠居するような年になったら絶対にロンドンから離れたくないと思っています。
何故かって、お金をかけなくても文化的な生活ができる都市だから。

年金を貰って、無料の交通パスを貰って、無料の美術館でのんびり絵を見たりする生活。
美術館や博物館の有料メンバーになれば、有料の特別展示だって見放題だし、レクチャーに参加したりするのもいいなぁ。

今日はそんな美術館でよく見るアーティスト、ルーベンスとヴァン・ダイクが描いた同じテーマの作品を紹介したいと思います。

このふたり、アントワープの出身なんですが、イギリスでも大活躍した画家なので、イギリスのお屋敷や美術館に行くと彼らの作品を目にすることが多いです。

ルーペンスの方が20年ほど年長。
そしてヴァン・ダイクは彼の工房で働いていたことがありました。
ふたりともイギリスの宮廷で活躍した功績から騎士の称号を受けて Sir Peter Paul Rubens 、Sir Anthony van Dyck とよばれました。

ルーベンスが30歳過ぎたころ、アントワープの市長から注文を受けて描いた絵に「サムソンとデリラ」という作品があって、ナショナルギャラリーのルーベンスのお部屋に飾られています。
迫力のある絵で、物語も面白いし、私はこの絵のご案内をするのが好きです。


そしてこちらはヴァン・ダイクのサムソンとデリラ。
この絵はダリッチギャラリー(有料)に置かれています。

この作品、ヴァン・ダイクが20歳くらいの時に、まだルーベンスの工房にいた1620年ころ描いたものです。
なのでおそらくルーベンスの作品のことは知っていたはず。
場面の構成が左右全く正反対なのが面白い。

それ以外にもサムソンとデリラの関係。
ルーベンスのバージョンでは自分が裏切った恋人サムソンにまだ心惹かれるようなデリアの態度がサムソンを見つめる目や彼の方に置いた手で表されています。
それがヴァン・ダイクのバージョンではサムソンから距離を取るような態度や散髪屋が仕事をしやすいようにサムソンにかかる布をずらして手引きをする様子が冷酷です。
お金を貰って恋人を裏切るなんて酷いっていう声が聞こえてきそう。
若いなぁ(笑)
ルーベンスは「事情があって裏切っちゃったけど、ホントは好き〜❤️」みたいな裏の事情を考えさせられますが、ヴァンダイクの絵ではそういった深い感情よりも興味津々で覗き込む老婆の方が共感できる。
「ゴクッ」と唾を飲む音が聞こえてきそう!!

ところで、前回の記事でハサミの話をしましたよね。
ヴァン・ダイクのハサミの部分を見てください。
「何これ?」と思いました?


こっちがルーベンスのハサミです。
私たちにも見慣れたハサミですよね?

じゃあヴァン・ダイクの絵に出てくるモノは何か?
これもハサミの一種です。

ハサミって何千年も前に古代エジプトで生まれたんですが、それ以降ヨーロッパでは16世紀までは「握りばさみ」が主流だったんです。
私たちが普通に思うX型のハサミは古代ローマ時代から存在こそしていましたが16世紀以前は一般的ではなく、17世紀から一般化していきます。
つまりルーベンスは彼の時代のハサミを描いて「見て〜最近こんなの流行ってるでしょ」って言いたかったのか。

昔の握り鋏は銅でできていたらしい。
このハサミはエジプトっぽい装飾のローマのハサミ。
1800年ちょっと前のもの。
NYのメトロポリタン美術館所蔵(リンクします)

日本の糸切り鋏みたいですよね。

因みにギリシャ神話ではこういった糸切り狭は「命の糸を切る」ということで死を表すモチーフとして使われます。

ヴァン・ダイクが描きこんだハサミはギリシャで羊飼いが使っていたタイプ(鉄製の頑丈なシアーズといわれる握りばさみ)
わざわざギリシャっぽいものを入れたということは、つまりサムソンの死を表すってことなのかなぁ?
すごいね、ヴァンダイク。

え、ちょっと待って。
いくらヴァン・ダイクが裕福な絹商人の息子でもギリシャのことそんなに詳しく知ってる?
17世紀ってギリシャは異教のオスマントルコだし簡単に行くことができなかったのでは?

行かなくてもわかるんです。
ダリッチギャラリーに行かなくてもこの絵を見ている皆さんがいるように、行ったことのない国の絵や話を伝える方法が昔からあるんです。
「本」って呼ばれています(笑)
これは1510年ごろに教会で使用される書物のために描かれたものでフラマン地方で製作されたもの。
羊飼いのハサミを見てください。
大きさも質感もヴァン・ダイクのハサミとおんなじ!!


絵がちょっとうまいだけの若造だと思っていたのに、ルーベンス先生、ちょっとドキッとしたかも?
いまさら市長さんのお宅にお邪魔して「すいません、鋏をちょっと描換えたいんです」とは言えない。

そして、そんなヴァン・ダイクの画家としての腕前もいたるところに表れています。
デリラの肩の部分の装飾。

ドレスの豪華な生地部分。
ヴァン・ダイクは絹商人の息子だっただけあって、いい素材を小さな頃から見ていたせいなのか、素材の選択や描写がとても素晴らしい画家です。
肖像画家として上流階級の人々に贔屓にされたのがよく理解できます。

人間のドラマを描くならルーベンス、高級素材ならヴァン・ダイク(笑)

というか、一説ではヴァン・ダイクの才能を恐れたルーベンスが、自分の得意な歴史画や宗教画のマーケットを取られないように「君には肖像画が向いている」と勧めたとか。

真偽はさておき、二人の作品を比べるとなんだかありそうな話という気がします。






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2 件のコメント:

phary さんのコメント...

ハサミの話とても面白かったです。私、絵の良し悪しはよくわからないのですが、こういう、絵が描かれた当時の生活とか時代背景とかにはとても興味があります。だから美術館や博物館に行っても、絵そのものより、描かれているそういう細かいところを見てしまいます。みきさんのような幅広い説明をしてくれるガイドさんと一緒だったら(いつかの靴の話みたいに←おぼえていますか?)もっと絵の鑑賞が楽しくなるでしょうね。

miki bartley さんのコメント...

Pharyさん、コメントありがとうございます。
靴の話、、、どこでお話したのかは覚えていませんが、絵画の中に出てくるならセックスに関係ある話か、凝ったものならステイタスシンボルとしておはなしすることが多いです。
脱いだ靴ってことならまずセックスの話です(笑)