2024年6月6日木曜日

イギリスの負の遺産

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最近、イギリスでは美術館や博物館の展示に負の遺産を紹介することが多くなりました。
負の遺産というのは色々ありますが、イギリスでは特に奴隷や植民地に関するものが目立ちます。

例えば去年新しくなった肖像画美術館や、毎年架け替えがあるテイトブリテンなどでも絵画の展示の説明に「この絵が描かれた背景には奴隷貿易で富を得ていた財産という要素がある」という一文が加わっていたり。

こういった補足は役に立つと思う人たちがいる半面、批評家の中には、絵画の良さよりも女性画家だとか黒人が描かれているとかを選択の基準にするのは政治的すぎるといった意見もあるようです。
また、時代物のテレビドラマや映画にも、これまで一切見ることがなかった人種の雇用が広がっていることを形式主義(トークニズム・Tokenism)とよんで軽蔑するする風潮もあります。

これを逆手に取ってコメディーにしたキャラクターがサウスパークのトルキン・ブラックというキャラクター(リンクします)
皮肉が売り物のアメリカのアニメーション。

先日訪れたケンジントン宮殿でも負の遺産としてこんな像が飾られていました。

この像はジョン・ノストという彫刻家 による「奴隷にされた男性の胸像」
1700年ごろの作品です。
ジョン・ノストはフランドル地方のアーティストで、イギリスに住みました。
親戚に同じ名前の人がいて、それぞれがアーティストなのでややこしいです。
彼は1710年に亡くなって、イギリスに長く住んでいた間に教会の中のお墓の彫刻などをたくさん手掛けています。
甥っ子も彫刻家で、同じ名前。
その人は1729年に亡くなって、バッキンガム宮殿やチャッツワースなどのお屋敷にたくさんの彫刻が残っています。

この作品はロイヤル コレクション登録番号、RCIN 1396
モデルは誰なのかわかっていないようです。
ヘッドバンドには宝石がはめ込まれていた穴がまだ残っていて、羽根の生えたターバンを含め東洋風の衣装を身に着け、豪華な装い。
それなのに、彼の首に巻かれた首輪はには留め金か錠が取り付けられていたようで、彼の身分を示しています。
ということで、贅沢なファッションは、彼自身ではなくて奴隷所有者の富と地位を意図的に誇示したものといえます。

この胸像はウィリアム 3 世、もしくはその後継者であるアン女王のためにケンジントン宮殿に飾るために作られたと思われています。
ふたりとも、当時のたくさんの人たちと同じようにロイヤル・アフリカ会社(後の南海会社)によって行われた奴隷貿易に投資していました。
南海会社はバブルがはじけた原因の会社として歴史の授業で習いますよね。

そういった会社に投資した個人や団体はロンドン市で株の取引を行いました。
ロイヤルエクスチェンジです。
16世紀に建てられたロイヤルエクスチェンジは1666年のロンドン大火で焼失。
その後建て直されたものも、1838年に火事で焼失。
現在のロイヤルエクスチェンジはその後ウイリアム・タイトによって建てられたもの。
この写真はロイヤルエクスチェンジのウェブサイトから。
柱が並んだ大きな建物がそうです。
そして、その左側は英国銀行。
ロンドン市の中心といっても過言ではない交差点。

現在、レストランとショッピングモールになっている建物の中はこんな感じ。
フォートナムメイソンのショップとティールームもあって、ランチやアフタヌーンティーでにぎわっています。

きれいな青空の日にペディメント(三角の彫り物のある部分)の写真を撮りました。
ウエストマコットという彫刻家によって、17人の人物が彫られています。
テーマは取引所だけあって、ロンドンの商人と世界の商人。
中心には商業のシンボルの擬人化。
その左手に8人、右手にも8人。
左端から見ていきましょう。
色んな人物が取引するものを持っています。
服装から外国人とわかる人も。
そして右手の8人がこちら。
中央のシンボルと併せて17人。



気が付きました?

中央のシンボルは外して、16人のうち、取引をしていたのは15人だったこと。
ひとりだけ、取引をされていたこと。

ひとりだけが跪いていたこと。

そして、これがロンドンの富を象徴するロイヤルエクスチェンジの正面であるということ。

負の遺産に関するアートは以前にも紹介しました。
でも実際には何気なく見ている景色の中にもたくさんの負の遺産が隠れている。







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