2010年8月26日木曜日

Academic Cull

私のブログでは、桃太郎君の関係で、イギリスの教育制度などを話題に出したりすることがあります。
教育制度は国によって違いますから、日本と比較すると面白い事柄のひとつです。
今日紹介するのは、教育制度といった風に、表に出るものではなくて、言ってみればイギリスの教育の裏側にある事実です。

日本では「学生と8月」から連想されるのは何でしょうか?
「夏休み」とか、「クラブ活動の合宿」かな?
イギリスでは「試験の結果」を考える人が圧倒的に多いと思います。
GCSE(中学校最終試験)と Aレベル(大学入学に必要な試験)の結果が発表になるためです。
その後の進路に大きな影響を与える両試験ですから、毎年のようにメディアが大きく取り上げます。
また、各校の成績結果は公にさらされます。

イギリスの学校の制度は以前にも話題にしたことがありますが、公立と私立でシステムが違います。
特に中学校はいくつか種類があるので、ちょっと簡単に書いておきますね。

コンプレヘンシブと呼ばれる公立校は、11歳から16歳までの5年間で、イギリスの子供達のほとんどがこのスタイルの学校に通います。
入学するには学校の近くに住む必要があるだけ。
学費は地方自治体が学校に生徒の数に応じた費用を支払いますから、学費の個人負担はありません。
そこで人気の高い学校の近くは、家の値段が高くなります(笑)

ヴォランタリーエイデッドというスタイルの学校もあって、これは教会が設立する場合が多いのですが、11歳から16歳までのものと、18歳までのものがあります。
これも個人負担はありませんが、入学時には宗教がらみの制限が設けられていたりします。

数は少ないのですが(ロンドンには19校しか残っていません)グラマースクールというのもあります。
これは、大学の進学を頭に入れている学校で、11歳から18歳まで。
学費の個人負担はありませんが、入学時に試験があります。

最後はインディペンデント校と呼ばれる私立校です。
11歳もしくは13歳から18歳まで。
入学試験と学費の負担があります。

ということで、コンプレヘンシブとヴォランティアエイデッドの一部は、GCSE受験が在学最後のイベントになります。
7月に学校は終わって、結果を受け取るのは卒業後、8月というわけです。

ところが18歳までの子供達を受け入れている学校は、在籍中に試験の結果を受け取ります。
そして、成績が思わしくない生徒は、自主退学処分にしたりするところもあるのです。
この、GCSEの結果で、自主退学させる制度のことを「Academic Cull」というのです。

「Cull」を日本語にすると、選択するとか摘むと訳されるようですが、イギリスに住んでいる人間が「Cull」から連想するのは、役に立たない動物を大量に殺すという行為です。
例えばアナグマが畑に被害を与えるのを防ぐために、いっせいにアナグマ狩りをする、とか、病気が発生した家畜を大量に焼却処分する、などです。
選択されるのは残されるほうではなく残って欲しくないもの、それがイギリスの「Cull」です。

「Academic Cull」という言葉は、おそらく初めて耳にする人の方が多いんではないかと思います。
というのもかなり新しい造語だからです。
多分、グーグルしても、日本語では出てこないんじゃないかな?

「Academic Cull」の目的は、Aレベルの結果のリスク排除です。
というのは私立校を選ぶ時に、親が一番初めに見るのが、その学校の過去のAレベルの成績の推移だからです。
もちろんそれ以外にも、学校の施設設備、ポリシー、在校生の保護者や卒業生の顔ぶれ、立地など考慮すべきことは山のようにありますが、学校は教育を受ける場所なので、選択理由の最低でも半分は学術レベルの高さです。
どんなに他がよくても、学術レベルがいまひとつ、ということであれば、それが目的の入学希望者は見込めません。
ですから学校側としては「Cull」に乗り出すわけです。

私はこういった行為の事実は知っていましたが、あまり深く考えたことはありませんでした。
桃太郎君の学校もウェブサイトなどの公の場で、「Academic Cull」はやらないポリシーなんて書いていますし、いまひとつ私たちには関係のない話題だったわけです。

ところがですね、お友達のおうちで、このために随分大変だったという話を聞いたのです。
お友達のおうちはお父さん、お母さん、長男長女と犬一匹という家族構成で、ギルフォード郊外で暮らしています。
生活レベルが丁度私たちと同じくらいなので、話が合うことと、ティムちゃんとお父さんのジョーがお仕事が同じ業界ということで、たまに家族でごはんを食べたりする仲です。
長男坊トム君は、桃太郎君と同じ年。
桃太郎君と同じように(学校は違いますが)私立中学校の通学生です。
このトム君が、学校から「GCSEの結果が悪ければ、自主退学するように」と申し渡されたというもの。

ジョーはもしものために、たくさんの学校に連絡を取って、受け入れ先を探したのですが、結局ヘンリーオンテムズ(レガッタで有名なところ)にある寄宿舎学校がトム君の受け入れを認めてくれたそうです。
寄宿舎!

桃太郎君もそうだったのですが、私たちが学校を選ぶ時に、当然寄宿舎の学校も考慮に入れました。
デモね、寄宿舎はやっぱり向き不向きがあります。
そこで、結果、通学できる学校を選んだわけです。
ジョーのところもそう。
それが今更寄宿舎なんて。
トム君も、できれば今の学校で残りの2年を過ごしたいという希望なのですが、見込みはほとんどなさそう。
仕方なくジョーはヘンリーの学校に1学期分の学費を納めて、契約書にもサインをして、GCSEの結果がどうあれトム君の学校を確保したわけです。
トム君の今通っている学校は、イギリスの私立中学校の平均的な授業料ですが、ヘンリーの学校はそこよりもかなり高めです。
だから1学期分の費用というのはバカにならない額なのです。
(イギリスの専門的ではない事務職の税込み年収の半分くらい)

今週、GCSEの結果が発表されたのですが、トム君、予想に反してCがひとつもなかったので、今の学校に残ることになりました。
学校からはC以下をとったら自主退学といわれていました。
ちょうど私たちも桃太郎君の学校に試験の結果を受け取りにいく車の中だったので、携帯でずっと話していたのですが、ジョーの心境はかなり複雑なようでした。
GCSEの結果はうれしいけど、ムダになった1学期分の費用を考えると・・・って。

GCSEの結果は、各教科A*,A,B,C,D,E,F,Gの各グレード もしくはU(これは不合格)で表されます。

4 件のコメント:

のび太 さんのコメント...

こんにちは。お久しぶりです。
読みながら参考になりました。
いろいろと考えさせられました。
日本と本当に異なっていますね。
またこうした情報を教えてください。

rotenmeier さんのコメント...

厳しいですね。素行の問題で退学になることはあっても、成績で留年ではなく退学というのは日本ではあまり聞いたことが無いのですけど。日本の場合は入れるときに選別して、入ったら何とか卒業させますけど、考え方の違いなんですかねえ。

miki bartley さんのコメント...

のび太さん、こんにちは。
のび太さんがご興味をもたれるだろうなーと書きながら思いました。
こういった話題はあまり表に出ないので、日本にいると耳に入ってこないのではないかと思います。
日本にもイギリスにも表に出てこないことってたくさんあると思います。

miki bartley さんのコメント...

ロッテンマイヤーさん、こんにちは。
ドイツには留年の制度があるそうですが、イギリスでは聞いたことがありません。
素行の問題で退学というのは、こちらでは小学校から存在します。
桃太郎君の同級生で、小学校(公立)の時転校した子もいますし、中学校(私立)で転校した子もいます。
でも両方素行が問題でした。

こういったCullをみると、私立の学校はやっぱりビジネスなんだなぁと実感しますね。