グラインドボーンでオペラを見てきました。
邦題では「道楽者の成り行き」もしくは「放蕩者の成り行き」というそうです。
オペラといえば、イタリア語で歌われるというイメージが強いのですが、作品によってイタリア語でないものもあります。
これはホガースという英国の画家の、銅版画の連作を基に作られました。
それで、英語の台本なのです。
ですからイタリア語はメニューくらいしかわからない私でも、十分に楽しむことができました(笑)
登場人物の名前なんかは、ホガースというか、ディケンズというか、いかにもイギリスらしくって、道徳とかモラルなんかがちりばめられています。
台本を書いたW・H・オーデンは、イギリス生まれの詩人ですが、第2次世界大戦の前に自分の詩がプロパガンダに使われるのを嫌ってアメリカに移り、市民権まで得てしまった人です。
モラルなんかをちりばめた作品で有名だそうですが、私は読んだことがありません。
作曲はイーゴリ・ストラヴィンスキーです。
作品をちょっと紹介しておきますね。
トム・レイクウェル(レイクというのは道楽者とか怠け者とか言う意味で、ウェルは上手ってことです。単純だけどおかしいでしょう?)がアン・トゥルーラヴ(フルネームで、ある真実の愛という意味になります)と彼女のおうちの庭でいちゃついています。
そこへアンのお父さんのトゥルーラヴ(真実の愛)がやってきて、トムにシティー(ロンドン)で仕事を紹介してあげると提案します。
というのは、トムは無職で、アンがかわいいお父さんは、勤勉な若者が彼女にふさわしいと思っているからです。
ところがトムは、「せっかくだけど、僕は今のところ働く気はないから」なんて返事をします。
お父さんはそんな返事を聞いて、かなり不満げ。
トムは「ああお金持ちだったらなぁ」なんて夢のようなことばかり考えています。
そこに現れたのは、ニック・シャドウ(ニックというのは英語では悪魔のことです。)
ニックはトムに「あなたのおじさんの召使だった」と自己紹介して、遺産がトムに入ったので、ロンドンに来るように話します。
そしてトムのために不慣れなロンドンでの生活の世話を申し出ますが、お給料は1年と1日の後に、トムがふさわしいと思った額で結構ですと言うのです。
トムはニックと握手で契約を交わします。
そしてアンとアンのお父さんに別れを告げて、ロンドンに旅立ちます。
場が変わって、売春宿で遊びほうけるトム、でもあまり楽しくなさそうです。
次の場は心配そうなアンが、トムを訪ねてロンドンに旅立つシーン。
お父さんに黙って出かける彼女の心は痛みますが、「お父さんは強い心を持っているから大丈夫。でもトムには私が必要なの」なんて歌っちゃうわけです。
次の場はトムのロンドンの邸宅です。
お金持ちになったので、高価な調度類や衣服がお部屋に飾られています。
でも幸せではないトムに、ニックは幸せのためには束縛からの自由が必要だといいます。
そして束縛とは常識や偏見のことで、それを無くさないといけないなんて、何となくもっともらしいことを言うのです。
しかもそのために、見世物小屋で人気の、トルコ人のババ(ひげ女)と結婚すべきだなんて。
ニックは、誰も魅力的だとは決して思わない女性と結婚するということが、束縛からの解放の第一歩だと言います。
トムはそうかもしれないと考えて、ババに求婚するために出かけます。
次の場の幕が開くと、観客の笑い声が聞こえました。
お屋敷の正面玄関が舞台で、表札のように「トム・レイクウェル」とかかれています。
彼の苗字(上で説明したでしょう?)が出てきたのはここが初めて。
だからみんななるほど、と笑うわけです。
アンがやっとロンドンにたどり着いて、お屋敷までやってきました。
そこへトムの登場。
でもアンの姿を見たトムはちょっと狼狽気味。
というのも、ひげ女のババを花嫁に迎えるところだからです。
トムはアンにババを奥さんだと紹介して、アンは仕方がなく田舎へ帰ります。
次の場、またまたトムのお屋敷のお部屋。
でも、トルコ人のババの影響で、お部屋にはエキゾチックなものがたくさん。
おしゃべりなババに耐えられないトムは、ババに黙れと命じます。
そこから二人はけんかになって、耐え切れないトムはババにテーブルクロスをかけて黙らせます。
トムはその後ふて寝。
そしてニックの策略で夢の中で石をパンに変える機械を見ます。
目が覚めると同じ機械が彼の部屋に。
でもこれをビジネスにするための元手は、散財してしまったトムにはありません。
ところがニックは投資家を集めたから大丈夫だと安心させます。
トムとニックは一攫千金を夢見て部屋を出ます。
ここで、休憩。
グラインドボーンは長い中休みで有名。
85分です。
その間に、きちんとお食事を取るのです。
さて座席に戻った私達は、トムのお部屋の調度類にたくさんの張り紙を見つけます。
ビジネスに失敗したトムの財産は、債権者たちがオークションにかけるのです。
このオークションの担当者の名前がセレム。
だから?ってカンジでしょ?
でもセレムって言うのは,英語で Sellem、つまり Sell them(売っちゃえ)ってことです。
オークショニアーにぴったりな名前でしょう?
オークションで次々と競り落とされる品物。
そしてその中に何とテーブルクロスで隠されていたババも!
彼女は競り落とされる品物が、ひげ女時代の自分のファンから贈られた物なのを見ます。
トムのことを心配してやってきたアンを見たババは、トムはまだアンを愛していると言い残して、見世物小屋の商売に戻ります。
場は変わって、墓場にいるニックとトム。
舞台には開いた墓穴。
これはトムのためにニックが用意したものです。
というのも、ニックがトムに仕えて1年と1日。
トムはニックに支払いをしないといけないのです。
ニックが欲しいのはお金ではなくてトムの魂です。
ニックはトムに、銃、刀、首吊り、そして毒のいずれかを選ぶように迫りますが、トムは選ぶことが出来ません。
そこでニックはカード博打を提案します。
もし、ニックの選ぶカードを3回とも当てることが出来たら、命は助けるという提案。
トムはアンの真実の愛のことを考えて、ニックに勝つことが出来ました。
トムのための墓穴は今はニックのためのものに変わりました。
ところが最後の力でニックはトムに呪いをかけます。
「正気を失うように!」
最後の場はべドラム。
ロンドンの悪名高き精神病院です。
この精神病院は実在したもので、患者を見世物にしたり、その扱いがひどかったので、政府が検挙したりとホガースの時代に話題になったところです。
トムはベッドの脇で、自分がアドニスだと信じ込み、ビーナスを待ち望みます。
アンが看病に来るとビーナスだと信じて喜ぶのですが、アンはトムに子守唄を歌った後、迎えに来た父親と一緒に去ってしまいます。
「私に出来ることはもうないから・・・」
目が覚めたトムはビーナスがいないと嘆き悲しむのです。
舞台装飾がとても素敵でした。
デイヴィッドホックニー。
私は彼は画家としてよりも、セオリーで好きな人です。
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