モダンアートは嫌いではありませんが、お仕事でご案内するのは苦手です。
というのも、とらえ方に個人差があるものがほとんどなので、ご案内の仕方が難しいから。
そんなガイドしづらい場所の総本山(笑)がテートモダン美術館。
ロンドンのテムズ南岸にあって、私はウォータールー駅から川沿いを歩いてアプローチすることが多いです。
ロンドンにたくさんある、その他の美術館、博物館と同じく、ここも入場料は無料。
有料の特別展示があるのも同じです。
違う点は、並ばなくても入れるところ(←重要!)
今日はそんな中にあるモダンアートをひとつ、皆さんに紹介したいと思います。
テートモダンのコレクションの中では、比較的、拒否反応が出にくい作品です(笑)
写真だけだと分かりにくいので、ビデオにしました。
というのも音を聞いてもらいたかったから。暗い部屋に不気味なアート。
騒音?
作者はブラジルの人で、メイレレスという名前。
2001年の作品です。
タイトルはバベル。
約8メートルの高さのこの塔は、よく見るとたくさんのラジオでできているんです。
ラジオはそれぞれ違う局にチュー二ングされてあって、それらから様々な音が流れてきます。
でも、音が重なり合って、結局はどれもきちんと聴くことができない。
メイレレスは小さな子供だったある日、森の中で浮浪者を見かけたそうです。
翌日、その浮浪者を探し出そうと同じ森に探検に行きましたが、彼は去った後で見つけることはできませんでした。
でも彼がおそらく寝泊まりしただろう、簡単な、でも完璧な、森の木々で作られた小屋を見つけた時「作品をつくり、それを他人に残す」という概念に気づいた、と、あるインタビューで答えました。
これが、彼がアーティストになったきっかけ。
この作品、バベルというのは旧約聖書に出てくる町の名前です。
聖書によれば、すべてを溺れさせた洪水のあと、助かったのは箱舟に乗っていた生き物だけ、人はノアとその家族だけになりました。
その後、ひとはどんどん増え続けましたが、全ての人々は同じ言葉を話していました。
そりゃそうですよね。
だって、ノアとその妻から生まれたわけで、彼らの言葉を受け継いだのです。
たくさんの家系に分かれても、ルーツも言葉も同じです。
そこで団結して立派な都市を作ろうということになり、そこに記念塔を作ったわけ。
このくだりを聖書から引用します。
創世記
第 11 章
1 全地は同じ発音、同じ言葉であった。
2 時に人々は東に移り、シナルの地(バビロンのこと)に平野を得て、そこに住んだ。
3 彼らは互に言った、「さあ、れんがを造って、よく焼こう」。こうして彼らは石の代りに、れんがを得、しっくいの代りに、アスファルトを得た。
4 彼らはまた言った、「さあ、町と塔とを建てて、その頂を天に届かせよう。そしてわれわれは名を上げて、全地のおもてに散るのを免れよう」。
5 時に主は下って、人の子たちの建てる町と塔とを見て、
6 言われた、「民は一つで、みな同じ言葉である。彼らはすでにこの事をしはじめた。彼らがしようとする事は、もはや何事もとどめ得ないであろう。
7 さあ、われわれは下って行って、そこで彼らの言葉を乱し、互に言葉が通じないようにしよう」。
8 こうして主が彼らをそこから全地のおもてに散らされたので、彼らは町を建てるのをやめた。
9 これによってその町の名はバベル(混乱)と呼ばれた。主がそこで全地の言葉を乱されたからである。主はそこから彼らを全地のおもてに散らされた。
バベルの塔。
この作品に含まれるいろんな要素を考える時、それはその考える人によって大きく変わってきます。
例えばタイトルから宗教的なモチーフを考える人もいると思います。
これがメディアのお部屋に展示されていることから、現代の情報過多を考える人もいるでしょう。
政治的な意味合いに捉える人も多いと思います。
それはラジオというものが「放送」に使われるからです。
つまり、この作品を見る人たちそのものも「バベル(混乱)された人々」なわけ。
言葉をバラバラに乱されることで、その人達の考え方も変わります。
価値観の違いが溝を作り、争いを生みます。
誰が正しいのか、何が正義なのか分からない世界。
今まさに私たちが住んでいるのがそんな世界なのでは?
ノアの子孫達の中からアブラハムが誕生します。
アブラハムはユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教にとっても祖となる人物です。
共通した祖を持ちながらいがみ合うなんて皮肉なことです。
イギリスでは7月末にサウスポートという町で3人の子供たちの殺人を含むとても痛ましい事件がありました。
ショッキングなことに、犯人は17歳。
男性という報道も、その年齢から子どもという報道表現もあります。
事件の後、彼の情報がSNSで独り歩きした結果、移民反対であるとか、特定の宗教に加担しているとか逆に排斥しようしているとか、色々な旗印のもとに人が集まって、それに便乗する形で暴動が起こっています。
そんなニュースを見ながら、皆さんにこのアートを紹介したくなりました。
ぜひ本物を観に行ってください。
テートモダン、4階の6のお部屋、ポップアートで有名なリヒテンシュタインのお隣です。
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