2023年6月15日木曜日

モニュメント by スーザン・ヒラー

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最近、テイト美術館(ブリテンの方)の展示についての批評をいくつか読んだので、実際に見てきました。

テイトブリテンは私がブルーバッジガイドになるためのコースを受講していた時、実地試験の場所の一つだったこともあって、とてもなじみが深い場所です。

ここの厄介なところは、年に一度、大掛かりな絵画の架け替えがあることです。

今回の批評は現在の展示についてで「政治的すぎる」というのが批判されています。
以前、時代別だった展示をテーマ別に変えたときにもいろいろな意見が出ました。
その後、また時代別の展示に戻って、ガイドとしては案内がしやすくなりました。

最後に行ったのはいつだったかなぁ。

コロナ中はいかなかったし、たぶん4年ぶりくらい?

正面入り口から入って、常設展示の時代別部門に行くなら、突き当りまで行って左に折れます。
その手前左手のアートがとても興味深かったので、今日はテイトのかけ替えのお話ではなく、そちらを紹介したいと思います。


壁に菱形に写真が並んでいて、手前右手にベンチ。
スーザン・ヒラーというアーティストのモニュメントという作品です。
制作は1981年。
ベンチにはヘッドフォーンが設置されています。

開館と同時、そして正面(普通は脇から入る人が多い)から入ったので、まだ周りには誰もいません。

せっかくのチャンスなのでヘッドフォーンを手に取ってベンチに座ってみました。
ベンチに座ると、壁の作品に背を向けることになるのがまず面白い。

壁には41枚の写真が貼られていて、1940年生まれのヒラーが一枚一枚が彼女の人生だとテープで語っていました。

ところが一体何の写真だと思います?
一部を拡大してみました。
教会などによくある故人のメモリアルモニュメントです。
ヒラーと関係のある人というわけではなくて、ヴィクトリア時代に亡くなった人ばかり。

男性も女性も年齢もばらばらで、子供も含まれています。
でも一つ共通点がある。

それはこれらの故人がなくなった原因が人命救助に由来していること。
例えば左上のジョン・クリントン君は10歳でテムズで溺死しました。
一緒にいた年下の子供を助けるためだったそうです。

テープはヒラーの声だそう。
彼女によるとモニュメントのおかげで、ジョン・クリントン君の肉体が存在した時間は10年間だけど、このモニュメントのために彼の存在は87年間(作品制作時)続いているということが語られていました。
なんだか名声が死に勝つなんて、ペトラルカの凱旋みたいですね。
テープでは、40枚の記念碑のひとりひとりを、その人生の長さと亡くなった年から1981年までの長さを読み上げていました。

また、ヒーローというものについて、視点によってとらえ方が違うとか、この作品を作るきっかけになった、モニュメントが存在していることに気が付かない人たちの話とか、長々と語りは続きます。

写真の中央やや下には落書きの体で「STRIVE TO BE YOUR OWN HERO(自分自身のヒーローになるために努力しろ)」と書かれています。

モダンアートは理解することや楽しむことが難しい作品が多くて、これもそんなひとつかもしれません。
ベンチのプレートにタイトルと彼女の名前、制作年が刻まれていました。
イギリスでは公共のベンチに故人の名前を記念に刻むことが多くて、景色のきれいな場所や公園にはそんなベンチがたくさんあります。
この作品名の入ったプレートは、そんなイギリを知っている人たちには、記念碑的な意味があることを思い出させると思います。

ベンチの装置には巻き戻しや早送りの機能も付いていました。
私は1回だけ、最初から最後まで通しで聞きました。
メモを取っていたわけじゃないので、正確にすべてを覚えているわけじゃないのもモニュメントとの違いですね。
視覚でとらえる部分(つまりモニュメント)は写真などに残せるけれど耳に入ってくるものは残せないものが多い。

そんなことを考えながら、ヒラーが「あなたは作品の一部だということを自覚している」みたいなことを言っていたのは面白かった。
その時のその瞬間だけ、モニュメントの一部になっている自分。

壁の写真の部分は公の部分、ベンチに座ってこのテープを聞くことができるのは一度にひとり、直接アーティストが語りかけているプライベートな部分。
でもテープを流すというのは対話ではなく一方的である点なんかにも触れていて、なかなか興味深い内容でした。
1981年に画像とサウンドを組み合わせたアートというのは画期的だったそうです。

機会があったら是非どうぞ。






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