2010年1月28日木曜日

ある日、バスの中で


数日前、ティムちゃんと「トゥーティング Tooting」というところに行く機会がありました。
駐車関係の事情で、公共の乗り物を利用しなくてはいけなかったので、確実で出来るだけ早く行く方法を探すように言われました。
私と知り合うまでは、路線バスに乗ったことすらなかったそうで、いまだにティムちゃんは公共の乗り物が苦手です。
地下鉄も嫌いで殆ど乗りませんから、お出掛けの時にはいちいち私に目的地までの行き方を聞くのです。

はじめ聞いた時は「信じられない」と思いましたが、いくらロンドンに住んでいても、車によく乗る人は、公共の乗り物がよくわかっていないのが当たり前みたいです。
却って地下鉄やバスの路線に詳しかったりすると、英語で「Geeky」といって敬遠されます(笑)

リッチモンドからトゥーティングまでは、地下鉄を乗り継いだり、鉄道を使ったり、いろいろな方法があるのですが、それぞれの場所での乗り換え時の待ち時間を考えると、渋滞を考慮しても路線バスで行く方法が確実だと思いました。
バスの時刻表によると、リッチモンドから65分(ラッシュ時以外)ということです。
バスの頻度は15分に1本。

イギリスのバスは何分に1本という案内で、何時何分にそこへ来るかということは、普通かかれていません(長距離のものは別)。
そこでバス停で待つ時は、一体何分待ては次のバスが来るのかは、さっぱりわからないのです。
最近ではバス停に電光掲示板が付いていて、何番のバスが、後何分で来るか、といった案内が出るものもあるのですが、全てのバス停がそうではないのです。
というより、ウエストエンドならともかく、住宅地ではそんなバス停の方が数えるほど。

今回乗ったのは493番というバスで、一階建て。
35人くらいが座れるサイズです。
行きは75分くらいかかりました。
リッチモンドを出たらシーン、ローハンプトン、パットニー、ウインブルドンテニス場、ウインブルドン駅、そして、トゥーティング。
乗り換えもなく、乗ればゆっくり出来るので、用事が済んだ後も同じバスで帰ることにしました。
鉄道よりも街の細かな観察が出来るので、ちょうどいい機会。
行きにもかわいいパブの看板なんかを見つけて、ちょっと面白かったんです。

一階建てのバスは、ちょうど車体の真ん中くらいに、車椅子やベビーカーが乗せられるスペースがあって、その辺りは座席がありません。
そこで座席というのはバスの前方と後方にきっぱり分かれるようになっています。
私たちが座ったのは後ろの部分の真ん中あたり。
私はバスに乗るなら前の方が好きです。
なぜなら客層がいいから。
もちろん時間帯や路線にも拠りますが、問題がありそうな人ほど後ろに座っている気がしてなりません。
みんな進行方向に向かって座っているわけですから、前の方ほど人目があるというのも、前に座る理由のひとつです。
でもその時はティムちゃんと一緒なので、空いている後ろに座ったのです。

トゥーティングを出てしばらくして、ドッグレース場の横くらいから、私と同じ年くらいのカリブ系の女の人が乗ってきました。
私たちの斜め前に座ったのですが、何となく周りをみると、乗っている人の半分以上がカリブ系でした。
イギリスに来た当時はわからなかったけれど、イギリスに住んでいる黒人は主にアフリカ系とカリブ海系に分かれます。
それぞれ文化や風習、服装や顔立ちなんかも違います。
バスに乗ると、こんな風に地域の観察が出来るのが面白いのです。
乗って気が付いたのですが、この路線は典型的なロンドン郊外の裕福な地域と貧しい地域を巡りますから、とても興味深い観察が出来ます。

その人は気の強そうな顔立ちで、ちょっと怖そう。
身なりは悪くありませんが、特に「プロフェッショナルな仕事についている」といった雰囲気はありませんでした。

お昼前くらいの時間で、バスは結構混んでます。
定年を越えている人たちが半分以上。
大きな病院が路線上に2つあるので、そこへ向かう人たちか、おうちへ帰る人たちかもしれません。

しばらくすると乗客の誰かが咳をしました。
すると、その女の人が誰にも何もいわずに、いきなりバスの窓を開けたのです。
(イギリスでは周りの人に一言断るのが礼儀)
車の種類にも拠りますが、普通の1階建ての路線バスには屋根の少し下に横幅の広い(1メートル弱x15センチくらい?)窓が付いています。
手前に引いて開けるタイプの窓。
その日はものすごく寒かったので、すぐに後ろの席の人が意見しました。
「こんな寒い日なんだから、閉めてください」
女の人は窓の下に座っていたのですが、バスは動いているわけですから、冷たい風が彼女の後ろに座っている人たちにもろに当たります。

すると彼女、なんて言ったと思います?
「私は新鮮な空気が吸いたいのよ」

びっくり。
横で聞いていた私は「だったら歩けば?」と思いましたけど、何も言いませんでした。

5分位して、私たちの側にも(足元までも)かなり冷えた空気が広がってきました。
路線バスなので、基本的には乗客はみんな外を歩く格好をしているわけですが、それでもとても寒いのです。
さっきの男の人が立ち上がって、黙ったまま窓を閉めました。
そうしたら彼女が再び窓を開けて、男の人を睨みつけて言いました。
「黙って閉めるなんて失礼よ!これは私の窓なのよ。」
男の人も負けていません。
「あんたの窓から入ってくる冷たい風が、みんな後ろに来るんだ。いい加減閉めたっていいじゃないか」
これで終わりだと思ったら、彼女がまた窓を開けて言いました。
「寒いんだったら席を移りなさいよ。汚い空気を吸って病気になったら、私の面倒は誰も見てくれないんだから身勝手なことを言わないでよ。」
この台詞には、バス後方の人達はお互い顔を見合わせてびっくりしました。
更に彼女は続けて、
「私はもうすぐ降りるんだから、私にはそれまで新鮮な空気を吸う権利があるのよ。窓を閉めたいんだったら私が降りた後、閉めればいいことじゃないの」

「そんな性格だから、あなたが病気になっても、誰もあなたの面倒なんてみたくないのよ」
よっぽどそう言ってやろうかと思いましたが、こんな人を相手にするのは自分のエネルギーの無駄だと思って何も言いませんでした。
・・・というか雰囲気を察したティムちゃんに止められたのが理由(笑)

とりあえず「すぐ降りる」という言葉を信じて、その時が来るのを待ちました。
ティムちゃんと、彼女がどこで降りるか賭けようと思いましたが、二人とも「ローハンプトン」
仕方がないので
「あの人、降りる時に窓を閉めるかどうか賭けよう」
二人とも「閉めないで降りる」と予想したので、やっぱり賭けは成立しませんでした(笑)
結局予想通り、彼女はローハンプトンで窓を閉めることなくバスを降りました。

降りたあとは例の男の人が窓を閉めて、バスの中の雰囲気が一気に和らぎました。
そして見ず知らずの乗客同士が、いかに彼女が身勝手か話し始めました。
イギリスでは、どんなに長く隣に座っても、知らない人とは話をしません。
「Excuse me」「May I?」「Thank you」の3つくらいかな?
でも30分ほど一緒につらい思いをした人たちの間には、何となく「同胞」みたいな感情が芽生えていたのかもしれません。
イギリスの生活のひとコマです。
私にはとても興味深い1時間でしたが、ティムちゃんはもうコリゴリですって。
写真はこっそり撮ったので、写りは悪いのですが、この人がその彼女です。
バスの中ってこんなカンジ。
横長の窓が見えるでしょう?

4 件のコメント:

のび太 さんのコメント...

読ませていただきました。
いろいろな乗客がいるのですね・・。
本当に文句を言いたくなるでしょうね。

ゆき珠 さんのコメント...

時々居ますねー、公共交通機関でわがままを言う人。
でも、新鮮な空気を吸いたいから大多数に迷惑をかけても気にならない、ついでに正当だと主張する人には遭遇した事はないかな?
普通「寒いから閉めるよ」と言えば、大抵「あ、どうぞ、どうぞ」って事になりますよね。
「その冷たい空気のお陰で喘息の発作が出たら、どうしてくれる!?」って誰か言えばよかったのにね。

新鮮な空気が吸えなくてどーにかなっちゃう人(しかも真冬の空気)より、冷気で体調を悪くする人の方が絶対に多そうですよね。ドイツ人のおばあさんとかなら絶対に激怒しそう。。。

miki bartley さんのコメント...

のび太さん、こんばんは。
いろんな意見があるなぁ、と思って、却って面白かったです。
彼女はきっと彼女の意見が正しいと思っていたんでしょうね。
私もわがままを通すタイプなので、「他の人の気持ち」というのが最近ちょっと私のキーワードになっています。

miki bartley さんのコメント...

ゆき珠さん、今晩は。
普通はそうですよね。
自分が少し我慢しても「譲り合い」のキモチって大切だと思います。
座りたいけど、自分よりも座席が必要な人がいたり、とかはよくあります。
ティムちゃんは「風邪を引いている人は公共の交通機関を利用すべきじゃない」と言いますが、人それぞれ事情があります。
今回のこの彼女は寒い日だったから特に目立ったけれど、どんな理由があるのか、ちょっと興味を惹かれました。
ドイツ人のおばさんだったら、どうなったでしょうね。
ケンカになったかな?
人間ウォッチはどこの国でも面白そうですね(笑)