私がロンドンのナショナルギャラリーをガイドする時は、いつも同じように回るわけではありません。
どれくらいの時間が使えるか、また、お客様自身の好みも考えなくてはいけません。
ご希望のジャンルがある場合は、そのエリアを中心にご覧いただくことも多いのですが、全てのお客様が、好みがはっきりしているわけではありません。
多いのは、「お勧めのルートでお願いします」というリクエスト。
お勧めも年齢層やお客様のバックグラウンドで随分違います。
一番古い絵画から始めて、時代によってどんな風に絵画が変わってきたかを観ていくのもひとつの方法です。
でもそうすると、どうしても19世紀後半の絵画が最後になってしまいます。
で、大概時間が足りなくなっちゃうんですよね(笑)
絵にはガイドしやすい絵と、そうでないものがあります。
ブルーバッジのコースを受講中に、しつこく叩き込まれたことのひとつが、「その場にいて、それを見ている、ということをいつも考えないといけない」です。
どういうことかといえば、街角でも美術館でもどこでもいいんですが、ある「もの」を見ている時に、バックグランドの話を多く話し過ぎると、まるで教室でレクチャーを聞いている気分になって、ものを見る楽しみが半減する、ということなんです。
例えば、ある絵画を取り上げる時に、時代背景や画家の生涯の話ばかりせずに、実際に目の前に見える色やパターン、形の説明をする方が、その場で実際に絵画を観ている楽しさを引き出すことが出来るということです。
そういった方法なら、断然見て面白いのは宗教画です。
絵の中に物語やシンボルがちりばめられていて、ひとつひとつ説明していくと、謎解きのような楽しみが得られます。
そして、その対極の絵画というのが(全部ではもちろんありませんが)印象派以降の絵画です。
実際の絵画よりも、どうしてそんな絵を描くことになったか、といった経緯やその人となりが興味深いのです。
もちろんカンヴァス上の「ここを見てください」的な話もしますが、やっぱりその人の生い立ちの方が話は長くなってしまいます。
さて、この絵は大変に有名なので、今更ってカンジかもしれませんが、それでもやっぱりたくさんの人がナショナルギャラリーを訪れて、本物を一目観たいと思っているようです。
ゴッホの描いた「ひまわり」機会があったらぜひ、他のひまわりと比べて欲しいのですが、なかなか「ひまわりを追いかけて旅をする」という贅沢は難しいようです。
今はネットのおかげで、映像でなら世界中に散らばっているひまわりを見ることができますが、やはり実物は随分違います。
私はロンドンのナショナルギャラリーにあるひまわりが好き。
他のものと比べて、きっとゴッホもこれが一番好きだったんじゃないかって思っています(確証はないけど)
まず、色を見てください。
「黄色」
人それぞれ、色にはたくさんの思いいれがあります。
ゴッホにとっての黄色が何だったのか、それは本人にしか解りません。
皆さんの「黄色」はどんな黄色ですか?
私の「黄色」はコッツウォルズの菜の花畑。
少し、緑がかった黄色で、さわやかな黄色。
澄んだ空気と、これからの夏を期待させる、透明感のある色。
農作物の殆どを輸入に頼っているイギリスの、少なからず自慢できる神様からのめぐみ。
ゴッホが生まれたのはオランダです。
今はともかく、昔オランダは「ヨーロッパのぬかるみ」とよばれていました。
海抜下の土地も多く、私たちがかわいいと思っている風車にしても、ひっきりなしに水をくみ出さないと、住めない土地が多かったという証です。
物を耕す場所がほとんどないので、買ってきたものを売るという「商売」が盛んになります。
「オランダ商人」という言葉には「情けのない、厳しい、ケチ」などいまだにネガティブな印象がまとわりつきます。
英語で割り勘のことを「ダッチ」つまり「オランダ式」というのにはそういった歴史があるのです。
オランダでは物を作って豊かな生活をするという可能性はほとんどなかったわけです。
そんなところで育ったゴッホが、数々の苦難の末に南仏に移り住み、将来に期待していた時期に描いたのがこの作品。
南仏で黄色といえば、ひまわりの黄色です。
そこに行った人にしか判らない色というものがありますが、ひまわり畑の黄色はそんな色のひとつです。
今でも南仏をドライブすると、飲み込まれそうな黄色の群れ。
ゴッホが見たのは神様だけが作り出せる黄色。
私が初めて南仏を訪れた時に、その息を飲むような黄色の美しさを見て、初めてゴッホが理解できたと思いました。
空の色が違います。
ゴッホのひまわりを言葉にするなら「悦び」
他の誰もが試みなかった方法で、ひまわりをカンヴァスに納めたときの彼の悦び。
だからサインを入れることが出来たのです。
その黄色を一番美しく出しているのがロンドンのナショナルギャラリーの「ひまわり」です。
薄いラインで入れた青い色が、黄色を本来の美しさで映えさせています。
バックグラウンドを青くしてしまうと、黄色は浮いてしまいます。またラインを暖色でまとめると、神々しさが消えてしまいます。散っていく花に、彼の苦悩を重ねたくなる気持ちはわからないではありませんが、ナショナルギャラリーの「ひまわり」からは苦悩は感じられません。
それよりも神様からの神秘的な命や躍動感を私は感じます。
4 件のコメント:
背景が青いのはミュンヘンのノイエ・ピナコテークのものですね。
実は趣味の会のメンバーに観光ガイドのベテランさんがいてこの夏休みにミュンヘン近郊をいろいろ案内していただいたんです。アルテ・ピナコテークとノイエ・ピナコテークもそれぞれ一日かけてみたのですが、彼女の説明がまさにみきさんがおっしゃるようなものでした。私は歴史は好きですが、絵に関しては完全など素人なのですが、おかげで絵を見る楽しみのようなものが分かりました。
Pharyさん、こんばんは。
この記事を書いたときに、Pharyさんは(地元なんだし)見たことがあるかなぁと思って書いていました。
私は青いバックのひまわりは、残念ながら実物は見たことがありません。
もうひとつの方はゴッホ美術館で見ました。
どこかの博物館で、一度ずらりと並べる企画をやってもらいたいですね。
今テイトモダンでゴーギャン展をやっているのですが、その展示説明がポッドキャストで手に入ります。
残念ながら英語だけなんですが、I-Tuneでゴーギャンで探すとでてくると思いますよ。
I-Podにダウンロードするだけなので、とても簡単です。
ゴッホとのかかわりが出てくるので、ひまわりの予備知識として見てみると面白いです。
ゴッホがひまわりの絵を書くのにはそういう背景があったのですね、なるほど納得。
私は多分、ロンドンとゴッホ美術館、それから他でも?(ひまわりってどれくらいあるんだろう?)見ていると思います。
みきさんの説明を先に聞いていたらもっと印象にのこったろうに!
マダムみきの絵についてのお話、好きです♪
マダム、こんにちは。
本当は、ブログ開設時、こんな記事とか、イギリスのウンチクものをメインにする予定だったんですけどね(笑)
ひまわりは日本にもありますよ。
保険会社が持っていて、美術館に展示されているはず。
空襲で焼けたものもあります。
世界中で10点弱、あるはずです。
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