2010年11月15日月曜日

ポートランドの壷

今日、ご案内するのは大英博物館に置かれている「ポートランドの壷」です。
美術館と違って、写真の規制がないので、今日撮りに行ってきました。
この他にもついでにいろいろ撮っていたら、博物館の人や知り合いのガイドから
「何やってんの? まだ見たりないわけ?」なんて、冗談を言われました。
よく考えたら、大英博物館には少なく見積もっても1500回は来てるなぁ。
もし、ロンドンで1箇所だけしか観光できないのなら、ためらうことなく「大英博物館に行きなさい」と言うでしょうね。
本当に本当にお勧めです。

この壷は約2000年前にローマ帝国で作られました。
さて、材料は何でしょう?

私がこの壷を案内する時には、この質問の後に、壷を下のほうから見上げてもらいます。
こんなカンジで。そしてね、口のところから光が透けてるのを確認してもらうんです。
ちょっと写真の撮り方が悪いんだけど。
これはね、午前中撮ったんだけど、実は天窓からの明かりの関係で、午後のほうがよくわかります。
写真はクリックすると、ちょっとだけ大きくなるはず。別の角度からも見てみる?これね、ガラスで出来ているんです。
2000年前ですよ、すごいでしょう?
吹きガラスの工法で作られました。
単色のガラスだけではなくって、濃紺のガラスの上から白いガラスをかぶせてあります。
そして、そのガラスに彫刻を施して、カメオの効果を出しているんです。
カメオにはいろんな素材が使われますが、基本は「何層かになっているものを彫って下の地を出して浮き彫り模様にする」という技法です。
貝なんかはシェルカメオとよばれて有名ですよね。

これは、ギリシャ神話がテーマになっているそうですが、こんなところにもローマ帝国が広がった理由のひとつが見て取れます。
普通、神話などは征服した国が自国のものを押し付けるケースが多いのですが、ローマは違います。
ローマは外国の神様だって全部吸収するだけの懐を持っていました。
もともとギリシャの神様は、ローマの神様に重なるものも多かったので、簡単に飲み込まれてしまいました。
神話も含めて、物事は押し付けると反発を招きます。
都合のいいように取り入れる柔軟さがあれば、大概はうまくいきます。

きれいな彫刻だなぁ、なんて眺めていると、青い地のところに、薄くラインが入っているのが目に付きます。
それは修復の痕。
2000年も前の壷だし、割れたのも納得。

でもね、この壷が大英博物館に展示された当初は割れていなかったんです。
1845年にロイド君という青年がぶつかって展示台から落として割ってしまったんです。

この話をすると、ほとんどのお客様は
「で、ロイド君、どうなったの? 死刑?」
と、期待をこめたまなざしで(笑!!)私の答えを待つのですが、残念ながら、なんとお咎めなし。
その当時、まだ持ち主だったポートランド公爵(壷の名前は持ち主だった公爵家の名前から取られている)が、刑罰を求めなかったのがお咎めなしの理由。
1945年に大英博物館が正式に購入して、現在の持ち主は博物館です。
今だったら、逮捕されちゃうかな?
とにかく200以上に割れた壷は、立体のジグゾーパズルを仕上げるように修復されました。

壷がまだ完全だったころ、これを見てヒントを得たのがジョシュア・ウェジウッド。
「これが陶器で出来たらどんなにいいだろう」
そう考えた彼が作り上げたのが「ジャスパーウェアー」のシリーズです。
折からの古典趣味とあいまって、瞬く間にウェジウッドは人気になります。
これは同じく大英博物館に展示されている、ウェジウッドの作った「ポートランドの壷」イギリスでは土の関係から、有名な陶工はスタッフォードシャーにかたまっています。
ロンドンまでは距離があります。
せっかくの陶器も、需要の多いロンドンまで馬車で運ぶと大変。
お金もかかるしリスクも高い方法です。

そこで彼は紡績の機械でお金を作ったアークライトと共同出資して、運河の建設に投資しました。
今、私たちが観光で田舎を抜けて主要な町などに出かけると、途中で鉄道の線路に沿って走ったり、運河に沿って走ったりします。
物を運ぶ時は、時代によってさまざまな方法が選ばれたわけですが、もし、この壷がなかったら、運河は別のルートを走ったかもしれません。
そして、鉄道のルートだって、変わったかもしれないのです。

4 件のコメント:

Kisa さんのコメント...

みきさん、こんにちは!
面白いエピソード有難うございます♪
昔から英国の歴史に興味があって、いつか大英博物館に行きたいと思ったまま、今まで行く機会に恵まれてないのですが、展示品の写真が鮮明で、ちょっとだけその場にいるような気分になれました。
もっと面白いものいっぱいあるんだろうなあ〜。

phary さんのコメント...

ウェッジウッドのジャスパーウェアーにそんないわれがあるとは、、、。
こういうエピソードを話してくれるガイドさんに当たると得した気分になるでしょうね。さすがみきさん。
しかし、いかにお仕事とはいえ、1500回ってすごいですね。もう大英博物館の陰の生き字引じゃありませんか。

miki bartley さんのコメント...

Kisaさん、こんにちは。
いつか行ってくださいね!
どれだけいても、飽きることがありません。
また何かここに載せますから、是非読んでください。

miki bartley さんのコメント...

Pharyさん、こんにちは。
私も改めて数を考えてみて、ビックリしました。
でも、最低でも1年に150回は行っているので、のべにするとすごい数です。
ガイドのなかでは新しい方なんですけどね(笑)