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2025年9月8日月曜日

ペリシテ人を打ちのめすサムソン



女運が悪い選手権を開いたら絶対に5本の指に入る聖書の登場人物サムソン。




ということで、今回紹介するのはジャンボローニャの彫刻のサムソン。

別にマッチョな男の人が好みっていうわけじゃないです。
でもこの像の魅力は力強さ、とても惹かれる彫刻です。

この像は大理石でできているのですが、熱気というか、殺気というか、すごい迫力。
聖書の士師記15章に出てくるシーン。

14サムソンがレヒに着くと、ペリシテ人は歓声をあげて彼を迎えた。そのとき、主の霊が激しく彼に降り、腕を縛っていた縄は、火がついて燃える亜麻の糸のようになり、縄目は解けて彼の手から落ちた。 
15彼は、真新しいろばのあご骨を見つけ、手を伸ばして取り、これで千人を打ち殺した。 
16そこで彼は言った。
「ろばのあご骨で、ひと山、ふた山
ろばのあご骨で、千人を打ち殺した。」
17こう言い終わると、彼は手に持っていたあご骨を投げ捨てた。こうして、その場所はラマト・レヒ(あご骨の高台)と呼ばれるようになった。 
18彼は非常に喉が渇いていたので、主に祈って言った。「あなたはこの大いなる勝利を、この僕の手によってお与えになりました。しかし今、わたしは喉が渇いて死にそうで、無割礼の者たちの手に落ちようとしています。」 
19神はレヒのくぼんだ地を裂き、そこから水が湧き出るようにされた。彼はその水を飲んで元気を取り戻し、生き返った。それゆえ、その泉はエン・ハコレ(祈る者の泉)と呼ばれ、今日もレヒにある。
20彼はペリシテ人の時代に、二十年間、士師としてイスラエルを裁いた。

この彫刻は実は噴水の飾りとしてメディチ家のために作られました。
神様がサムソンのために泉を与えたという、噴水にはうってつけのモチーフですね。
でもこういったお話は説明されないとわからないとよく言われます。

ま、そのためにガイドがいるので美術館や博物館に行く時はぜひ声をかけてください(笑)

ところで聖書のお話といえば全く今の私たちの世界とは関係ないと思っている人も多いと思います。
特に日本に住んでいれば聖書を読む機会がある人も少ないし、それも旧約聖書はなおさらかもしれません。

でもイギリスに住んでいるとメインの宗教はキリスト教の一派である英国国教会だし、そのほかの宗教の人と触れ合う機会も多いです。
主義主張が違う人たちがデモをしたりするのを間近で見ることもあって、最近は土曜日といえばイスラエルに対する抗議のデモを見ることも多いロンドン。
その中で「ガザのために」とうたう人も多くいます。
実はパレスチナというのはローマ帝国の時代にペリシテ人が住むところという意味で付けられた名前です。
ただ聖書の時代のペリシテ人が現在のパレスティナの人々の直接の祖先というわけではないようです。
ガザも士師記を含め聖書に何回も出てくる土地の名前。
そしてもちろんイスラエルも旧約聖書には欠かせない名前。
歴史の本を読む感じで旧約聖書を読んでみると興味深い発見があるかもしれませんね。



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2025年9月2日火曜日

苦情のお手紙を観てきたよ!

大英博物館には面白いものがたくさん展示されています。
気が付かずに通り過ぎてしまうともったいない!

でもね、似たようなものが並んでいて、そんなに(一般の人から見て)見栄えしないものだと通り過ぎちゃいますよね。

例えばこれ。

どこが面白いの?

この右端の粘土板、ギネスブックに載っているんですよ!

実はこの粘土板は紀元前1750年代ごろに楔形文字で記された、世界最古の苦情のお手紙(驚)

ナンニさんが銅の買い付けに際してその品質とカスタマーケアについて文句を言っている内容です。

この粘土板が見つかったのは古代都市ウル。
アガサクリスティーが発掘調査隊に参加して、彼女の自伝にも詳しく記したあのウルです。

このウルを居にしていた商人にエア・ナシルという人がいました。
彼が苦情を受け取った人。
古代のメソポタミアでは日常生活に欠かせないのに採れないから遠くから運ばれて貴重だった銅、その取引に関する苦情です。

では何と書かれているか。
わかりやすく単純に箇条書きで書きだしますね。

1,良質な銅を売るといったくせに、使者に差し出された銅はその価値がなかった。

2,その時の使者に対する態度が悪かった。

3,返金の要求のための使者も何回も手ぶらで送り返した。

4,テルムンのいろんな商人と取引をしているが自分をこんな風に扱うのはあなただけ。

5,あなたの代理で宮殿と神殿に1080ポンドずつの銅(おそらく取引税)を支払った。

6,とりあえず全額返金して。

7,今後の取引は自分の領地内で自分で銅を選定します。

8,今後対応が変わらないのならあなたとの取引はもうしません。

途中に些細な額の銀でもめたようなことも書かれています。
どの程度このエア・ナシルさんが悪徳商人だったかはわかりませんが、大英博物館には他にも彼の名前が出てくる粘土板を所蔵しています。
残念ながら、それらは展示がされていません。


古代のアッカド語(しかも楔形文字)を研究者が英訳した全文はこちら。
"Tell Ea-nasir: Nanni sends the following message:
When you came, you said to me as follows : “I will give Gimil-Sin (when he comes) fine quality copper ingots.” You left then but you did not do what you promised me. You put ingots which were not good before my messenger (Sit-Sin) and said: “If you want to take them, take them; if you do not want to take them, go away!”
What do you take me for, that you treat somebody like me with such contempt? I have sent as messengers gentlemen like ourselves to collect the bag with my money (deposited with you) but you have treated me with contempt by sending them back to me empty-handed several times, and that through enemy territory. Is there anyone among the merchants who trade with Telmun who has treated me in this way? You alone treat my messenger with contempt! On account of that one (trifling) mina of silver which I owe(?) you, you feel free to speak in such a way, while I have given to the palace on your behalf 1,080 pounds of copper, and umi-abum has likewise given 1,080 pounds of copper, apart from what we both have had written on a sealed tablet to be kept in the temple of Samas.
How have you treated me for that copper? You have withheld my money bag from me in enemy territory; it is now up to you to restore (my money) to me in full. Take cognizance that (from now on) I will not accept here any copper from you that is not of fine quality. I shall (from now on) select and take the ingots individually in my own yard, and I shall exercise against you my right of rejection because you have treated me with contempt.”


興味があるなら読んでみてください。




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2025年3月15日土曜日

同じテーマの絵を比べてみよう!


イギリスのいいところは美術館や博物館がたくさんあること!
特にその首都ロンドンには数えきれないほどのギャラリーがあって、無料で訪れることができる場所も多いです。

私は隠居するような年になったら絶対にロンドンから離れたくないと思っています。
何故かって、お金をかけなくても文化的な生活ができる都市だから。

年金を貰って、無料の交通パスを貰って、無料の美術館でのんびり絵を見たりする生活。
美術館や博物館の有料メンバーになれば、有料の特別展示だって見放題だし、レクチャーに参加したりするのもいいなぁ。

今日はそんな美術館でよく見るアーティスト、ルーベンスとヴァン・ダイクが描いた同じテーマの作品を紹介したいと思います。

このふたり、アントワープの出身なんですが、イギリスでも大活躍した画家なので、イギリスのお屋敷や美術館に行くと彼らの作品を目にすることが多いです。

ルーペンスの方が20年ほど年長。
そしてヴァン・ダイクは彼の工房で働いていたことがありました。
ふたりともイギリスの宮廷で活躍した功績から騎士の称号を受けて Sir Peter Paul Rubens 、Sir Anthony van Dyck とよばれました。

ルーベンスが30歳過ぎたころ、アントワープの市長から注文を受けて描いた絵に「サムソンとデリラ」という作品があって、ナショナルギャラリーのルーベンスのお部屋に飾られています。
迫力のある絵で、物語も面白いし、私はこの絵のご案内をするのが好きです。


そしてこちらはヴァン・ダイクのサムソンとデリラ。
この絵はダリッチギャラリー(有料)に置かれています。

この作品、ヴァン・ダイクが20歳くらいの時に、まだルーベンスの工房にいた1620年ころ描いたものです。
なのでおそらくルーベンスの作品のことは知っていたはず。
場面の構成が左右全く正反対なのが面白い。

それ以外にもサムソンとデリラの関係。
ルーベンスのバージョンでは自分が裏切った恋人サムソンにまだ心惹かれるようなデリアの態度がサムソンを見つめる目や彼の方に置いた手で表されています。
それがヴァン・ダイクのバージョンではサムソンから距離を取るような態度や散髪屋が仕事をしやすいようにサムソンにかかる布をずらして手引きをする様子が冷酷です。
お金を貰って恋人を裏切るなんて酷いっていう声が聞こえてきそう。
若いなぁ(笑)
ルーベンスは「事情があって裏切っちゃったけど、ホントは好き〜❤️」みたいな裏の事情を考えさせられますが、ヴァンダイクの絵ではそういった深い感情よりも興味津々で覗き込む老婆の方が共感できる。
「ゴクッ」と唾を飲む音が聞こえてきそう!!

ところで、前回の記事でハサミの話をしましたよね。
ヴァン・ダイクのハサミの部分を見てください。
「何これ?」と思いました?


こっちがルーベンスのハサミです。
私たちにも見慣れたハサミですよね?

じゃあヴァン・ダイクの絵に出てくるモノは何か?
これもハサミの一種です。

ハサミって何千年も前に古代エジプトで生まれたんですが、それ以降ヨーロッパでは16世紀までは「握りばさみ」が主流だったんです。
私たちが普通に思うX型のハサミは古代ローマ時代から存在こそしていましたが16世紀以前は一般的ではなく、17世紀から一般化していきます。
つまりルーベンスは彼の時代のハサミを描いて「見て〜最近こんなの流行ってるでしょ」って言いたかったのか。

昔の握り鋏は銅でできていたらしい。
このハサミはエジプトっぽい装飾のローマのハサミ。
1800年ちょっと前のもの。
NYのメトロポリタン美術館所蔵(リンクします)

日本の糸切り鋏みたいですよね。

因みにギリシャ神話ではこういった糸切り狭は「命の糸を切る」ということで死を表すモチーフとして使われます。

ヴァン・ダイクが描きこんだハサミはギリシャで羊飼いが使っていたタイプ(鉄製の頑丈なシアーズといわれる握りばさみ)
わざわざギリシャっぽいものを入れたということは、つまりサムソンの死を表すってことなのかなぁ?
すごいね、ヴァンダイク。

え、ちょっと待って。
いくらヴァン・ダイクが裕福な絹商人の息子でもギリシャのことそんなに詳しく知ってる?
17世紀ってギリシャは異教のオスマントルコだし簡単に行くことができなかったのでは?

行かなくてもわかるんです。
ダリッチギャラリーに行かなくてもこの絵を見ている皆さんがいるように、行ったことのない国の絵や話を伝える方法が昔からあるんです。
「本」って呼ばれています(笑)
これは1510年ごろに教会で使用される書物のために描かれたものでフラマン地方で製作されたもの。
羊飼いのハサミを見てください。
大きさも質感もヴァン・ダイクのハサミとおんなじ!!


絵がちょっとうまいだけの若造だと思っていたのに、ルーベンス先生、ちょっとドキッとしたかも?
いまさら市長さんのお宅にお邪魔して「すいません、鋏をちょっと描換えたいんです」とは言えない。

そして、そんなヴァン・ダイクの画家としての腕前もいたるところに表れています。
デリラの肩の部分の装飾。

ドレスの豪華な生地部分。
ヴァン・ダイクは絹商人の息子だっただけあって、いい素材を小さな頃から見ていたせいなのか、素材の選択や描写がとても素晴らしい画家です。
肖像画家として上流階級の人々に贔屓にされたのがよく理解できます。

人間のドラマを描くならルーベンス、高級素材ならヴァン・ダイク(笑)

というか、一説ではヴァン・ダイクの才能を恐れたルーベンスが、自分の得意な歴史画や宗教画のマーケットを取られないように「君には肖像画が向いている」と勧めたとか。

真偽はさておき、二人の作品を比べるとなんだかありそうな話という気がします。






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2025年3月13日木曜日

ナショナルギャラリーのサムソンとデリラ



今日はルーベンスが描いた「サムソンとデリラ」を紹介したいと思います。

ナショナルギャラリーにあるこの絵。

大きくちゃんと見たいなら、ナショナルギャラリーの公式サイトのリンクをどうぞ。

イギリスではサムソンはサムソンだけど、デリラはデライラと発音します。

そして、デライラという名前には悪女という印象が付きまとう。
それは聖書の中の物語からのイメージ。

まず、この絵のテーマになっているサムソンとデリアなんですが、ふたりは恋人同士です。
このサムソン、彼はお母さんのおなかにいる時から神様が気にかけてくれていたラッキーな人。
天使が下りてきて妊娠中に気を付けた方がいいことなんかのアドバイスももらってた。
生まれた後も願い事は何でも神様が叶えてくれます。
力も並外れて強くてユダヤ人のヒーロー。

ところが~!!
それで終わりなら面白くない!

実はサムソンって女運が悪いんです。
というか、見る目がないといった方がいいのか…。

最初に好きになった女の子が宿敵部族ペリシテ人の娘。
でも好きで好きでたまらない。
そこで神様に守られてもいることだし、家族の反対を押し切って無理やり結婚しちゃいます。
ところが奥さんの実家のみんなから嫌がらせをされて面白くない。
ある日、我慢も限界ということでカッとなったサムソンは奥さんの親戚一同を皆殺しにする…といっても武器はどうしたのか?
「ねぇ神様、なんかいい武器ないですか?」って聞けばいい。
そうしたら、ロバの白骨死体が道端にでてくる。
その下あごの骨を手に親戚を皆殺しにします。
その辺は血の海ですよね。
映画にしたらちょっとグロすぎるかもしれませんが、聖書で読むとそんな風に聞こえないのが不思議。
疲れたサムソンはへなへなっと座り込んで「のどが渇いたよ、神様…」ってつぶやく。
そうしたらサムソンの座った脇から泉が湧き出てのどを潤すことができたそうです。
旧約聖書って面白いお話がいっぱいあるけれど、サムソンのお話はその中でも読み応えがあるもののひとつです。

さて、仲間を何人も(聖書によれば1000人)殺されたペリシテ人は当然復讐を考えます。

しばらくして、サムソンに新しい恋人ができるのを待って、その彼女デリアを買収することにしたのです。
「サムソンからその力の秘密を聞き出せ」というわけ。
デリアはことあるごとにサムソンに問いかけます。
「ダーリン、どうしてあなたはそんなに強いの?」そんな問いかけじゃないですよ。

もっと具体的。
「どうやったらあなたを縛って痛めつけることができるの?」
それを聞いて疑わないほどサムソンは純情だったか?

サムソンはデリラに嘘を教えます。
「かわいたことのない七本の新しい弓弦をもってわたしを縛るなら…」
で、デリラはそうしたんですが、全然効き目がない。
他にも使ったことのない新しい綱で縛れとか、髪の毛を織り込んだ布を使えとか、もうこうなると縛られるのが好きなのかと誤解しちゃうほど(爆)

デリラがうるさいので結局秘密をばらしてしまうサムソン。
具体的には毎日「何度も嘘ばっかり言って、どうして私を愛していると言えるのですか」としつこく迫ったそうなので、サムソンの魂は死ぬほど苦しんだらしいです。
私がサムソンだったら、自分を痛めつける方法を聞かれた1回目でその人とは別れますけどね(笑)
サムソンは忍耐の男!

で、ここで注意してもらいたいのはその秘密が何かということなんですが、サムソンの上に覆いかぶさるようになった青い服の男性がハサミを持っていますよね?
ルーベンス先生、これじゃダメなんです!!
旧約聖書の士師記 13-5 に「見よ、あなたはみごもって男の子を産むであろう。その頭に剃刀を当ててはならない。」って出てくるんですよね。
はさみで切っても何ともない。
実際にサムソンがデリアに言った噓のひとつは、髪の毛を7房、織り込んだ布を使えというものでしたが実行後(つまり髪を切られた)サムソンの怪力は元のまま。
ま、かみそりだと濡らして剃るから起きちゃうってことかもしれません(笑)

それにしてもデリアはこのあと銀をたくさんもらったんですが、この絵を見る限りでは結構後悔していますよね。
でも秘密を聞き出すまでに何回も失敗したり、毎晩のようにしつこく聞いたっていう事実からも後悔しそうなタイプではないと思うのは私だけ?

悪女デリア。
今は美しくてもいつか時がたてばその美貌は失われて自分が犯した数々の罪にさいなまれる日が来るのでしょうか?
ということでルーベンスはデリアの顔の上に老婆を描きこんでいます。
そしてそのさらに上部には美と愛の女神アフロディーテ。
肉体の愛を表すキューピッドが愛の女神を見上げているという構図も意味が深いです。
そして陰影とのコントラストがデリアの白い身体を輝かせてとても美しい作品です。

この絵はアントワープ市長宅のマントルピースの上に飾るために描かれました。
なので、床で寝ているように見えてしまうのはちょっともったいないです。

もう少し高いところに飾られていたわけで、私たちが今美術館で見るよりももっと下から見上げるようにするとベッドの上にいるというのがわかります。

是非、ナショナルギャラリーで本物を見てくださいね。








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2024年11月19日火曜日

絶対観るべきタペストリーの展示

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今日紹介するグレイソン・ペリーのタペストリーは、イギリスの18世紀のアーティスト、ホガースの銅版画から着想を得たそうです。

ホガースは連続物の銅版画で有名です。
このブログでも何回か紹介したことがあります。
この記事、リンクするので読み直したら内容が盛りだくさん過ぎでビックリ。
今だったら絵画の解説とレシピと語源の話を3つ別々の記事にするだろうなぁ(笑)


ペリーが着想を得たというのは「道楽者の成り行き」というシリーズで、オペラの作品として楽しんだ時に紹介しました(リンクします)


「The Vanity of Small Differences(僅差の虚栄)」というタイトルが付いているタペストリーは全部で6枚。
それぞれに副題がついています。
展示のお部屋に入ると左に3枚、右に2枚。
そして奥の部屋に最後の1枚があります。

大きさがわかるように写真を撮ってみました。

このタペストリーの主人公はティム・レイクウェル。
ホガースの作品がトム・レイクウェルなのでアルファベットをひとつ替えただけ。
他にも2012年にペリーが出演したTVドキュメンタリーシリーズ「All in the Best Possible Taste with Grayson Perry」がヒントにもなっています。

展示室に入って左側の3枚は大人になる前のティムの人生です。

1枚目、若い母親から生まれたティムを描いた「ケージファイターの崇拝」
お母さんはティムのことよりも女友達とクラブに行ったり、一緒にいても携帯の方が気になっている様子。
場所はサンダーランドでイギリス北東部、上述のドキュメンタリーでは労働者階級の紹介で使われた街です。
聖母子崇拝の絵画には贈り物を持った人が出てくるけれど、ここでは赤ちゃんのティムにサンダーランドのサッカーシャツと炭鉱人のランプが捧げられています。


2枚目のタペストリーは「カーパークの苦悩」
ゲッセマネの苦悩からヒントを得た作品でティムのお母さんの夫(ティムの父親ではない)が中心に。
彼の右側で頭を抱えているのがティーンエイジャーのティム。
舞台はサンダーランドの丘で北海を眺める様子です。
ティムはグラマースクールの生徒でバッグからはコンピューターソフトに興味がある様子がさりげなくのぞいています。

3枚目は大学生のティム「エデンクローズ8からの追放」
これはもちろんエデンの園から出るアダムとイヴが題材です。
虹の右手に位置するティムとそのガールフレンド(ミドルクラスの女の子でタンブリッジウェルズ出身という設定)そして彼女の家族。
で虹の左がティムの実家(労働者階級だけど、暮らしぶりは悪くない)
虹を境に階級を超えたという設定で、笑っちゃったのが上中央やや左手に位置する顔。
誰だと思いますか?
これ、ジェイミーオリバー(イギリスのシェフ、給食の改善や若者の雇用などの社会的な提議でも有名)です。
ペリーによると階級移動の神様らしい(爆)
彼からの電がティムの彼女に向かっているのは彼女が妊娠したってことかな?



さて、展示室の右手には向かい合う形で4枚目の「受胎告知、バージンとの契約」
5枚目の「上流階級の崖っぷち」

 4枚目のタペストリーで、ティムは立ち上げたソフトウェアの会社が大成功で、ミドルクラスの理想の家庭をもっています。
ドールハウスで遊ぶ娘や、生活の余裕を感じさせる描写があちこちに出てきます。
ロンドンのナショナルギャラリーにある絵画のオマージュもあって面白い。
この鏡はヤン・ファン・エイクの結婚式の絵から。
多分オーガニックの野菜たちは、クリベッリ(リンクします)へのオマージュかな。

ティムは自分の会社を大手バージンに売却します。
バージンは実在の会社だけど、ここに売却というのはもちろんその名前から選んだんでしょうね。
そんな記事がタブレットに表示されています。

5枚目のタペストリーではコッツウォルズのマナーハウスに住んでいるティム一家。
でも成金の彼らは上流階級と認められることはありません。
生活に窮しても伝統がある上流階級とは隔たりがあるし、お金があるゆえにミドルクラスや労働階級のプロテストの対象とみられる苦しい立場。

そして最後の6枚目。
これだけ別のお部屋にあるのは事故の描写があるから閲覧注意ということらしい。
タイトルは「嘆き」
通常キリストの絵画では磔刑から降ろされたキリストの遺体を囲むシーンが描かれます。

ペリーはティムのそれを現在のイギリスに置き換えています。
アイディアのもとはファン・デル・ウェイデンの「嘆き」

このタペストリーにも様々なモチーフが登場しますが、特に記憶に残ったのは事故のシーンを携帯で撮ってアップロードしている傍観者。



グレイソンペリーの風刺が効いた素晴らしい観察力や皮肉が楽しめるまたとない機会なので、是非お出かけください。
展示は12月8日まで。





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2024年3月28日木曜日

夏に観られない芸術作品

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絶対に観られないってわけじゃないんですけどね。

でも気温が高い時には出ていないことが多いこの作品。
20㎝足らずの茶色い物体です。
何だかよくわからないですよね。
いったい誰の作品なのか。

それはね、ルネッサンスの巨匠のひとり、ミケランジェロ様です。
いきなり有難く見えてきましたね(笑)

V&A 所蔵のこちらは、蝋で作られた試作品です。
V&A の写真の方が見やすいと思います。
どうぞ。
え、大して変わらない?

ではフィレンツェの大理石のものをどうぞ。
ミケランジェロだけではなく、大きな彫刻を作る際は、粘土や蝋で小さな模型を作ってから本物に取り掛かることが普通でした。
ですよね。
油絵などの絵画と違って、塗りなおすわけにはいきません。
油絵などの、と書いたのは絵画でも塗り直しが不可能だったり、非常に難しいものもあるからです。
例を挙げるとフレスコ画。

フレスコ画というのは漆喰の壁や天井に描く絵のことです。
漆喰で壁を塗り、それが渇く前に水彩絵具をのせて色を定着させます。
一度乾いたらそれで終わり、やり直しはできません。
なので、正確さや素早さといった技術と共に、いい速度で乾燥するための湿度が必要。
ロンドンの国会議事堂の中をフレスコ画で飾りたいと思ったアルバート公(ヴィクトリア女王の夫)はこの湿度が適当でなかったために、プランをあきらめなくてはいけませんでした。
テムズ川沿いの立地やイギリスのお天気を考えると、漆喰がいつまでたっても乾かずに色が定着しなかったのが想像できると思います。


さて、フレスコ画で有名なものと言えば、同じくミケランジェロによる、システィーナ礼拝堂の天井が有名です。
ストレスの下で働くのが好きだったのでしょうか(笑)

話を蝋の模型に戻すと、タイトルは奴隷。
ローマ法王ユリウス2世が亡くなる前に注文した、彼のための大霊廟の装飾の準備作品です。

ミケランジェロは下描きや模型をたくさん準備して制作にあたることで知られていました。
が、そういった下準備の作品はことごとく廃棄されたりして、それほど残っていません。

ルネッサンスの伝記記者ヴァザーリは、ミケランジェロがどのように模型を利用して作品を作ったかということにも興味があったようで、その様子を書き残しています。

ヴァザーリによれば、ミケランジェロはこれらの模型を水に沈めて、少しずつ水面から出すことによって、細かなディテールを確認したそうです。
残念ながら、ユリウス2世の大霊廟は計画よりもずいぶん規模の小さなものになりました。
奴隷(フィレンツェでは「若い奴隷」)は未完成のまま。
霊廟に飾られなかった彫刻ですが、美術館に入る前はフィレンツェ公コジモ1世によって1909年まで庭の装飾として展示されていたそうです。
フィレンツエのものは未完成ですが、それでも256㎝ということで実物はさぞ迫力があるでしょうね。
私はまだ見たことがないので、いつか行ってみたいなぁと思っています。
同じ美術館にはミケランジェロのダヴィデ像もあります。
こちらも石膏で模られたコピーがV&Aに置かれています。



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2023年7月23日日曜日

世界で最初のアーティスト?

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今日は大英博物館の展示品の中から私のお気に入りを一つ紹介したいと思います。


ワインの壺です。

大英の展示品でまたワイン関連?と思いました?


けっこう大きいでしょ?
高さは70㎝ちょっと超えるくらい、直径は40㎝程です。
こういった足が付いたカップはディノスとかダイノスとかよばれて、ワインと水を混ぜて提供する目的で使われました。

う~ん、水増しワインかぁ。。。
そうです。
古代ギリシャではワインは水で割って飲むものだったんです。
古代ローマでもその習慣は引き継がれ、皇帝ティベリウスがワインを水で割らずに飲んだことが彼の逸話として有名にになったほど。

さて、話をこのディノスに戻すと、作られたのは2600年ほど前。
ギリシャのアテネ付近で作られたものです。

そのエリアは土壌に鉄分が多いので赤い器がたくさん作られました。

この壺の素晴らしいところは、制作者である(と思われる)名前が書かれていることです。
つまりサイン入りアート。

どこを見ればいいか。
写真の中央から右手にかけて柱がある建物が見えますね?
中央の人物のすぐ後ろの黒い柱と白い柱の間に縦に入った文字が見えます。

その部分を少し拡大して、横にしてみましょう。

これで見やすくなったかな?
古代ギリシャ語で「ソフィロスが私を描いた」と書かれています。



この壺のテーマは結婚。
ギリシャ神話にはいろんな結婚の物語がありますが、やはり一番有名なものはぺーレウスとテティスの結婚ではないでしょうか?

その柱の前に立っているのが、この人ぺーレウス。
そうです。
人です、神様ではありません。
結婚式に来てくれたお客様を出迎えています。

こちらが花嫁のテティス。
オケアノス(下半身がお魚の黒っぽい海の神様)のすぐ後ろの女性がそうです。
彼女は海の女神のひとりです。

元は彼女に求婚した中にゼウスやポセイドンもいたのですが、ある預言に「テティスの子供は父親よりも偉大になるだろう」とあったことから、息子に殺されたくないと思ったゼウスもポセイドンも結婚をあきらめて人間であるぺーレウスとテティスを結婚させたという逸話があります。

この結婚式は盛大なもので、主だった神様のほとんどが招待されました。
その様子が描かれたのがこのディノスというわけです。

パーティーの時に使われたであろう大きなワイン(と水)の壺。
きっと古代ギリシャの披露宴などでも大活躍だったでしょうね!

因みにテティスの産んだ子供の一人がアキレス。
人間との間にできた子供ですから、不死身というわけではない。
彼を不死身にするために、赤ちゃんのアキレスを冥界の地下水に浸けた時、テティスは足首を掴んでいたのでその部分だけが地下水に触れませんでした。
ということで不死身のアキレスの弱点が足首になったわけ。
これがアキレス腱の名前の由来です。

他にもこの結婚式にまつわる逸話といえばトロイア戦争。
それはまた、別の機会にご案内したいと思います。




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2021年9月19日日曜日

久しぶりにシャーロキアンネタ

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夜明けに携帯にメッセンジャーが届いて起こされました。

私は夜寝るときは何の音も鳴らないようにしているんだけど、ごく親しいお友達や家族からの電話やメッセージは音が鳴る仕組みです。
メッセージはピンっていう小さい音だけど、何事かと思ってメッセージ読みました。

そしたらお友達のひとりから「モリアティ教授が持ってたグルーズの絵ってワラスコレクション?」だって。
夜中の3時にやめてよ(笑)

ウォレスコレクションはロンドンにある「お屋敷美術館」
絵画だけではなく、武器や家具なんかも含め、フランス芸術が楽しめるところです。

シャーロックホームズには何人か本物の画家の名前が出てきますが、グルーズもその一人。

Jean Baptiste Greuze フランス画家。
ウォレスにあるとは知らなかったので、本当かどうか気になってウェブサイトにアクセスしてみました。

恐怖の谷という、ドイル後期の作品中、マクドナルド警部がモリアーティの部屋を描写するのですが、その箇所で出てきます。


“Did you happen to observe a picture over the professor's head?(教授の頭上にあった絵画に気が付いたかい?”

“I don't miss much, Mr. Holmes. Maybe I learned that from you. Yes, I saw the picture—a young woman with her head on her hands, peeping at you sideways.(ホームズさんのおかげであまり見逃すことはしませんよ。ええ、少女が両手に頭を乗せて横からこっちを向いているといった絵でした。」”

“That painting was by Jean Baptiste Greuze.その絵画はジャン・バプティスト・グルーズだよ」”

ウォレスコレクションの絵をチェックしてみましたが、そのような絵はありません。
気になって画家の名前と両手をキーワードにいろいろ検索してみるとスコットランドの国立美術館の絵がヒットしました。

調べてみると現在は展示されていないようです。
1861年に国立美術館に入ったということで、ドイルが子供時代に観ることができます。
お父さんは画家だし、エディンバラの美術館に行くなんて機会もあったでしょうし、状況は合格。
さて、どんな絵かというと・・・

両手の上に頭、横からこっちを見ている、エディンバラにある、ということでこれですね。


ひとつ物知りになって、気分良くその後寝ました。
起きたのは10時過ぎ。
ま、日曜日だからいいか(笑)




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2020年2月22日土曜日

日本で行われるナショナルギャラリー展

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イギリスが誇る美術館や博物館の中でも、ナショナルギャラリーは日本の方からも人気の場所です。

そのナショナルギャラリーが所蔵品を海外に貸し出したりすることがよくあって、行ってみたらお目当ての作品が飾ってなかったなんてことがあります。

この春にもそんな貸し出しがあるのですが、今までとは規模が違う!
何と61点が日本に行っちゃうんです。

東京 国立西洋美術館(リンクします) 2020年3月3日(火)~2020年6月14日(日)
大阪 国立国際美術館(リンクします) 2020年7月7日(火)-10月18日(日)

全てが素晴らしい作品だけど、私が特におすすめするのは以下の作品。

クリベッリ 聖エミディウスのいる受胎告知(リンクします)
ウッチェロ セントジョージとドラゴン
レンブラント 自画像
ゴッホ ひまわり(リンクします)
ゴーギャン 花瓶の花

是非この機会にお楽しみください。

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2019年12月18日水曜日

ナショナルギャラリーのダヴィンチ展、有料だけど、行く価値ある?

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世界的に有名なロンドンのナショナルギャラリー。
美術の教科書に出てくるような名画が、約2400点。
しかも無料で楽しめます。

でも有料の部分もあって、季節で内容は変わりますが、今やっているのはゴーギャン展とレオナルドダヴィンチ展。

今何をやっているか、チケットが手に入るかどうかはオフィシャルサイトで調べてください。

ナショナルギャラリーのイベント(リンクします)


昨日はトラファルガー広場のそばで少し時間が取れたので、ダヴィンチ展を覗いてきました。

この展示は普段無料の部分に掛けられている、ダヴィンチの岩窟の聖母に焦点を当てたものです。
チケットは16から20ポンド。

お部屋は4つ。

まず初めのお部屋はこんな感じ。

風景が銀色の箱状のブロックを通して覗けるようになっています。
ところどころに説明が入っていますが、文字が鏡文字。
ダヴィンチの手帳は鏡文字で書かれていたことに由来します。
銀色の箱に映りこんだ、反転のものを読むようになっている。

意味は分かるし、興味深いけど、読むのが面倒で数分で次のお部屋に移動しました。
忍耐力が試されているのかも(笑)

2つ目のお部屋はダヴィンチのスタジオというタイトルで、今回の展示の中で、私が一番いいと思った部屋です。

アーティストのデスクといった、モダンなコンセプトの部分で関連したほかのアーティストのガイドブックを眺めたり、それらしく置かれたイーゼルや絵筆といった小道具が目を引きます。
 そんな中に映像がでるスクリーンがあって、岩窟の聖母のモチーフの数々や、ルーブルに置かれた1作目の岩窟の聖母との比較、科学的に調査された下地の部分や、描き直された部分が出てきます。

絵画の解剖といった体。
 ずっと見ていても飽きないけど、難を言えば画面が変わるのが速い。
せっかくの素晴らしい内容がサッと終わってしまうので、映像を一方的に流すよりもパネルで展示してくれた方がゆっくり見れるのにと思いました。

3つ目のお部屋は影がテーマ。
見学者が光の角度を操作して、できる影を楽しむ装置です。
 ダヴィンチが語ったとされることばが壁に書かれていました。
「If the painter then avoids shadows, he may be said to avoid the glory of the art」

暗いのできれいに映っていませんが、これ、立体なので影ができるんです。
そして光の角度で影が変わると、印象が全く違ったものに変化する様子が面白かった。
 ほかにも光を操作できるオブジェが3つほどあって、それぞれ試して楽しみます。


 3つ目のお部屋はミラノの教会の設計図みたいなものの展示。

その奥にもう一つお部屋があって、そこに岩窟の聖母が置かれています。

 最初は映像だと思って観ていました。
というのも、絵の周りが映像でいろいろ変わるからです。
岩窟の聖母の横に彫刻が置かれたり、絵画が置かれたり、聖書の一コマが置かれて祭壇らしくなったり。

テクニックを駆使しているのはわかるけど、やっぱりいつものように近くでじっくり見るほうがいいと思うなぁ。

ギミックが過ぎて、本物のありがたみが薄れるというのが私のこの展示に対する感想です。

とても興味深いけど、そして勉強にもなったけど、早く特別展示が終わっていつものお部屋で岩窟の聖母と再対面させてほしいなぁ。

 お土産物もいろいろ揃っていました。
なんだかちょっと岩窟の聖母がお金儲けの材料にされたっぽい。
この展示は1月26日までです。



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