2012年5月12日土曜日

セント・ドロシー(ドロアテ)

この作品はSaint Dorothy and the Infant Christ(セント・ドロシーと幼いキリスト)ナショナルギャラリーのサイトにリンクしますというタイトルです。
ロンドンのナショナルギャラリーにあります。
画家の名前は Francesco di Giorgio 。


この人は、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロの先駆者ともいうべき人で「画家として」よりも、建築、彫刻、設計、発明などで有名だった人、シエナの出身です。
ヴァザーリの美術家列伝(英語訳版では画家、彫刻家、建築家の伝記というタイトル)で、彼の名前を探すと、やはり、建築家としての功績に、一番行数が割かれていました。
ナショナルギャラリーに展示されている、彼の作品はこれだけ。


この作品がある部屋には、大きな絵がたくさん飾られています。
その中で、特に小さなのがこれ。
サイズは33cmx20cm。


でも、絵のよさはサイズには関係ありません。
が、私はどちらかといえば、小さな作品が好きです。


大きな絵は教会とか貴族、王様が注文したものがほとんどなのに比べて、小さなものはもっと世俗的で、風潮を反映していたり、画家の好みがよく出ていたりするからです。


この絵をぱっと見ると、若い女性と子供の組み合わせなので「聖母子像」かなって思いそうですが、普通の聖母子像とは構図が全く違います。
手をつないだ聖母子像なんて見たことがありません。
綺麗な若い女性に手を引かれた子供は、ドレスを着て、かごを手に、まるでお散歩の途中って感じです。
かごの中にはたくさんのバラの花。
何となく、楽しそうな雰囲気がしませんか?


ところがとんでもない。


ドロシーはディオクレティアヌスがローマの皇帝だった時代に、現在のトルコで生活していました。
偶像の崇拝を拒んでキリスト教に改宗し、裕福な弁護士セオフィリウスから求婚されたのですが、神にこの身をささげていると断ってしまいます。


ディオクレティアヌスは、キリスト教を公認したコンスタンティヌス帝の前に皇帝だった人。
数が増え続け、ローマ法に従わないキリスト教徒を、「ミラノ勅令」で公認して統率したコンスタンティヌスとは逆に、迫害して抹殺しようとした皇帝です。


ドロシーも捕らえられて拷問で改宗を迫られました。
ところが信仰心のおかげで拷問にも耐えて、改宗はしませんでした。
拷問中には「天国ではバラが咲き乱れ、たくさんのフルーツが実っている」と話しました。
拷問番は「じゃあお前が天国へ行ったら、花とフルーツでも届けてもらおうか」とからかいました。
ドロシーの処刑は2月6日、冬なのにその拷問番のところに子供がバラの花とりんごを持ったバスケットを届けに来ました。


別の説では、求婚を断られたセオフィリウスが、処刑場に向かう途中のドロシーに「天国へついたら、何か送ってくれよ」といやみを言ったところ、処刑の後に天使がバラとりんごの入ったバスケットを彼に届けたそうです。
それでセオフィリウスは心を入れ替えて、キリスト教に改宗し、彼自身も殉教しました。


このお話は黄金伝説にまとめられて、ヨーロッパで大変人気になりました。
特に15世紀にドロシーの人気がイタリアやドイツで高まって、たくさんの作品(絵画や彫刻)が作られたそうです。
モチーフに、バスケットに入ったバラやりんごが使われますから、それと分かります。
彼女はお花屋さんの守護聖人(守り神)です。


この絵は画家の Francesco di Giorgio が彫刻で有名なだけあって、金の使い方が見事です。
わずかですが模様に凹凸があるので、豪華さが一段と引き立ちます。
前述の美術家列伝の中にも、「芸術家として見事な作品を作り上げる満足感」や「作品が人々に与える喜び」を第一に考えて、自分の欲とか儲けには心を割かなかった、とあります。
金を使って豪華さを出すなら、これよりも大きな作品では逆効果になるのでしょうね。


実際に美術館に足を運んで観るのが一番ですが、上のリンクでナショナルギャラリーのサイトに行けば、ズームして作品を見ることが出来ます。
子供の表情がすごく陰気なところとか、ドロシーの美しさとか、いろんなポイントで楽しめます。
ナショナルギャラリーの中では、ルーム60に展示されています。

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